※影パス×影レヴ
※ハート喘ぎ・濁点喘ぎ有
「あちら側」の俺は、あろうことかパスファインダーと蜜月だった。
見つめ合う時間の長さ——正確にはパスファインダーがほぼ一方的にあいつを見ていた——で気が付いた。当然あいつはなにも言わなかったが、あいつは俺だ。隠し事くらいすぐにわかる。
感興をそそられ、関係を問いただすためにパスファインダーを拉致した。彼はスクリーンをピンク色にさせて「レヴナントは僕の大切な恋人なんだ」あっさり答えた。
笑いが込み上げ、ドス黒い喜びが回路を駆け巡った。あいつは死に縋るだけでなく、このMRVNとの間に芽生えた、生温い絆にも執着しているらしい。実に滑稽だ。
興味本位で営みについても触れると、パスファインダーは「ふたりきりの時に接続するんだ」と声量を落として言った。
彼らは互いに装甲の内側を晒し、コードを引っ張り出して、コネクタを生殖器よろしく挿して繋げ、複雑な電子信号を送り合い、信号解析を通してエクスタシーを共有するそうだ。
セクサロイドのように疑似生殖器がない機体は、物好きが生み出したロボット専用の下品なアタッチメントをつけることで——それらはもともと、セクサロイドではないロボットに人間の相手をさせるために作られた。精巧に模られた前後どちらかの孔の開いた筒状のものをセットすればいい。もちろん両方使うことだってできるし、中には子宮や結腸まで再現されたものだってある。因みにナニの方はサイズが豊富だ——セックスできるというのに、ウブなものだ。
「アタッチメントを装着してあいつの〝股〟に挿れてみろ。きっと善がるぞ。お前の腰が持つかわからん」
くつくつと笑うと、パスファインダーは、スクリーンに映し出せる喜怒哀楽の表現を目にも留まらぬ速さで切り替えていた。
情報の対価として、俺はパスファインダーをオーバーヒートさせることなくあいつの元に返してやることにした。
影の軍門に下ったパスファインダーは、いつも怒りに満ちている。
未練がましく死を望む俺自身が存在する世界からやってきたパスファインダーとはまるで違う。正反対といってもいいが、元々は同じ存在だ。こちら側の彼は、光を呑み込んだ濃い闇そのものだ。
両肩のコイルを上下させて荒々しい排気を繰り返し、胸部スクリーンのフェイスマークを真っ赤にさせ、亡者の群れを屠る姿は、さながら死地へ乗り込んだタイタンのようだ。皮付きどもが内に秘め、飼い慣らしてきた暴力という原始的な本能は、忠実で献身的であるようプログラムされた鋼鉄の塊であるMRVNにも存在したかのように思える。
本能的なのは嫌いではない。彼は兵士としては優秀だ。実のところ彼を気に入っているが、残念ながら淫らな無聊を慰める相手には向いていない。一度だけ相手をさせたことがあるが、快楽を伴う抜き差しはできなかったのですぐに飽きて放り出した。
生身の肉体と交わる方がずっといいと思っていたのに、あちら側のパスファインダーを見送ったあと、すぐに彼を寝床に呼び出していた。
試してみたいことがあった。
「あちら側のお前は、夜な夜な俺とお楽しみらしい」
含み笑いで告げると、パスファインダーのスクリーンに砂嵐が走った。彼らの交合についてを仔細話している間も、砂嵐のままだった。怒気は感じない。大人しく話を聞いている。まるで興味があるみたいに。
「ちょうど新しい刺激が欲しいと思っていてな。俺たちもあいつらを真似て接続してみないか? 案外悪くないかもしれないぞ」
鷹揚と胸部のハッチに被さっていたベルトを外し、意識をハッチに移し、ロックを解除した。薄く頑丈な装甲が中央から左右にスライドして、誰にも見せたことのない内部が露わになった。
筋繊維のように集約されたコード、ジャイロやリミットスイッチ、一度も使ったことのないポート、最奥で息づくコア……どれも欠けてはならない繊細なパーツだ。ひとつでも破損すれば、俺が俺でなくなる。それなのに、あいつはここをポンコツMRVNに委ねているというのだから、よほど愛着があるらしい。
「お前が何故いつも怒りに駆り立てられているのかは知らないが、俺で発散しても構わん」
半分本気、半分冗談で言う。
高耐荷重ベッドに横たわり、パスファインダーにそばに来るように促した。
開いた足の間に機体が深く割り込み、彼から伸ばしたコードの先がコネクタに挿さる。まるでそうできていたかのようにかっちりと噛み合った。
接続が完了してからすぐに、パスファインダーは信号を送ってきた。身体の中央から四肢の末端にかけてじんわりと熱くなる。
「……ん……これは、あ、……!…………ッ」
パスファインダーから送られる微弱な信号は回路を巡り、ファイアウォールを瞬時に破って、大きな衝撃となって体内をかき回した。
「……ッ、……いいぞ、……ぐッ、あぁッ……!」
少しずつ量が増え、データの波が押し寄せる。下僕たちとのセックスでは味わったことのない快楽に善がりながら、たまらず、パスファインダーの腰部を足で挟み込み、距離を埋めた。
すっかり、高揚していた。
堪えられずに漏れた声が湿度の高い排気に混ざる。自然と腰が動き、パスファインダーのアクチュエーターとぶつかってかつかつと無機な音が弾む。
「……お”ッ……♡パスッ、ファ……ん”ッッッ♡♡」
淫猥な痺れが全身を駆け巡る。機体の温度が上昇し、冷却処理がはじまる。排液口のハッチを開けると、冷却処理を終えた体内からどろどろと粘っこい廃油が流れ出て、前垂れとシーツにシミを作った。
シーツを掴んでいたパスファインダーの右手が、ぐちょぐちょに濡れた股座に滑り、指が排液口にねじ込まれる。
「…………!」
雌穴に成り果てた隙間をほじくられ、粘っこい音が掻き出された。厚く硬い掌が一定のスピードで器用に前後して、角ばった指が中で折り曲げられる。耐え難いほどの悦に、声にならない声を上げ、みっともなく開いた足をがくがくとと震わせる。
——レヴナントに「気持ちいい?」って訊くんだ。はっきりと気持ちいいとは言わないけど、接続してると考えてることがわかるんだ。すごいでしょ? 僕はレヴナントが気持ちいいと思うことはたくさんしてあげたいと思ってる。
こんな時に、能天気なパスファインダーの言葉が記憶領域から滲み出た。
「〜〜〜〜♡♡♡ ア”ッ……イく……!……ン”〜〜〜ッッッ♡♡♡♡♡」
とめどなく送られる電子信号と、深々とピストンを繰り返す手——上からも下からも与えられる快楽は、膨らんで、ついに爆発した。全身がバラバラになったかのような感覚と同時に、目の前がちかちかと明滅した。処理しきれないほどの衝撃に身体が一瞬強ばり、一気に弛緩する。アクチュエーターが悲鳴を上げた。
パスファインダーの指が引き抜かれる。彼の指は廃油の膜に覆われていた。
「……はーッ♡はーッ♡」
怒涛のエクスタシーの余韻に浸っていると、パスファインダーに抱き起こされた。弱々しくも、しっかりとした抱擁だった。弛んだコードから、彼の思考が流れ込んでくる。
それは下僕の誰からも捧げられたことのないものだった。
蒙昧で不確かだと馬鹿にして、それでもどこかで焦がれていた情だった。
「お前……俺を……」
コアが熱を帯びる。
「そうか……」
アイセンサーを瞬かせ、パスファインダーの背中に腕を回す。きっとあちら側の彼らの間では、この未知なる定義が確立しているのだろう。
パスファインダーの胸部スクリーンに映し出されていた砂嵐が、ピンク色の画面に切り替わった。常々怒っていた中央のフェイスマークの口元は綻び、目はハートになっていた。
今日散々見た、パスファインダーの感情だった。