※イベントで新刊として頒布する予定でしたが、諸事情で参加を見送ったため、全文公開します。
お付き合いをしているふたりが前提となっている内容です。
黒の姿で「黒」「青」「赤」が各々ぐだ子を抱く話です。
コンドームを使用して双方合意の上で性交渉をしていますが、一部女性側の意思を尊重しない且つコンドームを使用せず行為に及ぶ描写が含まれています。しかしながらこちらは決して推奨ならびに賛同を示すものではありません。あくまでフィクションにおける性描写であることをご留意ください。
「赤のテスカトリポカ」がぐだ子に対してかなり淡白というか親しみがないです。なんでもゆるせる方向けの話です。
愛は支配しない。愛は育てる。
――ゲーテ
黒 / 快楽
その晩、立香はテスカトリポカの部屋を訪れていた。
彼と恋人同士になってから、共に過ごす時間が増えていた。大好きな人と過ごす時間は甘く、立香にとって、悦びそのものだった。ソファに並んで交わすなにげない会話ですら新鮮で、温かな親愛に溢れていた。
「テスカトリポカとおしゃべりするの、すごく楽しいです」
グラスに残っていたオレンジジュースを飲み干して、立香はソファの背凭れにもたれかかった。
「部屋に戻りたくないな。ひとりになったら、あなたが恋しくなっちゃう」
「なら、今夜はここにいればいい」背凭れに載せた腕で立香の肩を抱き寄せ、テスカトリポカは恋人の耳元で囁く。「オレも人肌恋しくてね」
「……っ」
「どうだ。ん?」
返事を促すように首を傾げるテスカトリポカの端正な顔に視線を溜め、立香はもじもじとしながら「そうします」頷く。いつかの夜に、この部屋でテスカトリポカに処女膜を破られた夜のことを思い出して顔が火照ってしまった。あの夜以来何度も肌を重ねているが、裸を見せるのは、まだ恥ずかしい。
「顔が赤いぜ、お嬢さん」
長い指が立香の顎を持ち上げた。そのまま距離が詰まる。立香は目を閉じた。彼とのキスは好きだ。
リップ音が心地よく耳朶に馴染んで、下腹部が熱くなる。
「ベッドに、行こ……」
「そうだな」
先にテスカトリポカが腰を上げた。スプリングが軋んで、沈んでいたソファのシートが浮いた。
ベッドまでふたり分の服が点々と続く。テスカトリポカが指をパチンと鳴らすと燈が落ちた。辺りが完全な暗闇に包まれた瞬間、彼はまた指を弾いた。ナイトテーブルのランプが灯り、仄燈が室内を照らし出し、ふたりの肉体を暴いた。
男の輪郭が甘美な快楽を知ったばかりの少女の輪郭を覆う。
肌を密着させ、唇を擦り合わせた。下唇が吸われ、薄く開いた隙間から長い舌が差し込まれた。くすぐるような動きで口腔を愛撫される。性的興奮で粘度が増した唾液が混ざり、頭がくらくらした。
「ん……ふぅ……」
息をする間も惜しいほどの口付けに官能の火種が弾け、立香の中の女としての本能を炙っていった。
彼女自身が知らない性感帯をテスカトリポカは知っていた。首筋から下肢へ滑っていく唇や、肌を伝い落ちる指、胸の膨らみを包み込む掌の動きに、立香はひとつひとつ反応していく。自分では決して感じられない快感に身を委ねるうちに、足の間からは、雌の芳香が立ち上った。
ぷっくりと膨らんだ胸の先が指の腹に挟まれて弄ばれ、軟体動物のようにくにくにと動いた。強く摘み上げられると、下腹部が熱を帯びた。勃起した乳首を爪の先で掻かれ、立香は艶っぽい声を上げて甘イキした。腹の奥底で、子宮が悦んでいる。
「お腹、きゅって、する……」
「どうしてほしい。言ってみろ」
低い声に、立香は肺腑にこもった湿った酸素を吐き出す。
「下も、触ってください。お腹の中……掻き混ぜて……ぐちゃぐちゃにして。えっちなこと、いっぱいしてください……」
大きく開かれた太腿のあわいにテスカトリポカの頭が移動する。愛液を溢れさせる膣口を、彼は舌でねぶった。ぬかるみに指が挿し込まれ、抜き差しがはじまる。指は生き物のようにくねり、肉が詰まったぴっちりと締まった膣内を乱していく。
「あ、んんんっ……! ああ……っ」
腹側で浅く鉤型に折れ曲がった指でGスポットを擦られながら勃起したクリトリスを舌で詰られ、強烈な痺れに襲われた。胎の中で渦巻いていた形を成さない灼熱が背骨を伝い上がって、官能に染まった夜にぽつんと取り残された理性に肉薄する。
「ひぅっ……きもちいよぉ……あぅ、ううっ……!」
いつの間にか指が二本突き入れられていた。緩慢に前後していた掌の動きが早まって、立香は思わず仰け反った。迫りくる灼熱を恐れて反射的に足を閉じようとしたが、膝を押さえ付けるテスカトリポカはそれを許さなかった。
胎内は指の動きを追うように攣縮する。背骨に絡み、心臓までせり上がっていた灼熱が一気に脳髄に突き上げ、理性を溶かし、混ざり合って、得も言われぬエクスタシーへと形を変えた。
「ん――あっ、イくっ……!」
天井を向いていた爪先が倒れて真っ直ぐに伸びた瞬間、股座から勢いのない潮が弧を描いて噴き出て、ガニ股に開いた両足が震えた。拘攣する躯幹に合わせるように、潮は間歇的に三度上がった。
「トんでないよな?」
指を引き抜き、濃い白濁が絡みつく股の間を舐めて、テスカトリポカは言った。
「だい、じょうぶ」
鼻を啜って立香は答えた。
「シーツ、濡らしちゃった。ごめんなさい」
「あとで取り替えればいい」
テスカトリポカは彼女の柔らかな下腹部へ片手を置くと臍の辺りを撫で回し、指の背を深く沈めて腹に食い込ませた。
「…………? なんでお腹を押すの?」
「力を抜いておけ」
立香は言われた通りに身体の力を抜いた。痛みはないが、外側から内臓を押されるのは変な感じだ。彼は何度も、揉み、捏ねるようにして腹を押してきた。
「ん……変な、感じ……」
身震いしてごくりと喉を鳴らし、立香はテスカトリポカの足の間に視線を移した。そこはもう血管を浮かせてそそり勃っていた。彼がほしくてたまらない。
「もう、我慢できない……挿れてください……」
股座が彼に見えるようにして足を開き、指で割れ目を広げた。くぱあっと口を開けて剥き出しになった粘膜は愛液にまみれ、雄を求めてひくついている。
「そう求められちゃあ、すぐにでもぶちこんでやりたくなる」
テスカトリポカは口の端を舐めずると、ナイトテーブルの抽斗からコンドームの箱を取り出した。彼が0.01ミリの薄膜を装着している間も、立香の胎は切なく疼いていた。
しとどに濡れた股座に逞しい男の象徴が載った。硬く太く長いそれは、雌孔から下生えのない恥丘に向けてぬるぬると動いた。水っぽいいやらしい音を立てて割れ目をなぞられ、ほめくクリトリスを押し上げられ、立香は吐息を飲み込み、期待に甘い吐息を零す。
テスカトリポカは自身に手を添え、腰を突き出した。張り詰めた先端と括れた雁首が浅い場所を削りながら奥へ食い込んでいく。彼はゆっくりと立香の中を拓いていった。隙間を埋める男の存在感と臓器を押し上げられるような圧迫感に立香は喉を反らした。
「熱いな」
テスカトリポカは締め付けを味わうように途中で腰を止めた。決して急くことのない動きに、じんわりと甘い痺れが広がって、立香は安心感に満たされた。
幅広の腰が引き、押し出され――テスカトリポカは胎内を往復しはじめた。抽挿によって、胎の底から押し上げられるように立香の唇の隙間から嬌声が漏れる。
「はぁ、あっ、あううっ……テス、カッ……!」
彼の背中にすがるように手を回し、隆起した肩甲骨の間に指を引っ掛けて、立香はすすり泣くように喘いだ。焦らすような緩急をつけた抜き差しは続き、ついにテスカトリポカは胎の最奥に辿り着いた。隙間をみっちりと埋める雄に征服され、子宮は陶酔にも似た随喜に満たされ、脳内ではシナプスが火花を散らす。
「……はぅ……あっ……んん……!」
行き止まりをつつかれた途端に、鋭い極致感が全身を突き抜けた。
「あ、あ、あっ、お腹の奥っ、深いところ、きもちい……っ! あっ、ぅあっ……」
立香を見下ろして、テスカトリポカは口の端を持ち上げる。
「ポルチオという部分はわかるか? 胎の奥にある。女はそこを刺激されると感度が増すらしい。さっき外側から刺激してみたんだが――」彼は腰を大きく引き、一息に奥まで滑り込んできた。「どうだ?」
「んぅっ……!」
緩慢だった動きから、奥を突く重たい動きに切り替わる。体液で濡れた肉同士がぶつかって、破裂音が身体の境界線で弾けた。テスカトリポカがぶつかった衝撃と同時に、立香は息を詰まらせた。目の前が閃光を見たようにちかちかと明滅する。瞬きをすると、赤色や緑色の影がいくつも横切っていった。
「……っ、…………! は、ぁっ……!」
胎内の深くにあるポルチオを責められて、立香は呆気なく絶頂した。
「……っ、…………!」
「声も出ないくらいいいか」
胎内が顫動し、テスカトリポカを四方から強く締め付ける。
「オレまでイきそうだ」
腰を止めて立香の膝裏を掴み直し、彼は高まった射精感を堪え、再び腰を打ち付ける。
「今っ、イったの、やっ……、だめ、動いちゃだめぇ……! あ、あ、おかしくなっちゃうぅ……!」
「だめ? オマエはこれくらいじゃあ物足りないだろう?」
テスカトリポカはほくそ笑んだ。徹底的に、執拗なまでに立香に快楽を味わわせてやりたかった。
男を知らず、性に未熟だった立香の純潔をもらい受けてから夜な夜な快楽を教えてきたが、若さゆえの旺盛さと、授けた「戦士の司」の影響――戦闘でよりマスターとしての力をよりいっそう発揮できるよう、魔術回路を通して、いわゆる「バフ」を盛っているワケだが、どうしてもヒトの本能的な部分も駆り立ててしまうようで、調子がいい分食欲と性欲が増したと立香はぼやいている――もあって、彼女は貪欲だった。とはいえ、戦いのあとに血が熱ければ冷ます必要があるのだから、立香が求めるのならば夜すがら慰撫してやるつもりだ。それに互いに身体の相性もいい。蛇のように絡み合って過ごす夜も悪くないとテスカトリポカは思う。
股座を密着させ、子種を求め降りてきていた子宮口を押し上げ、ふっと息を吐く。まだ極上の胎内から去るつもりはなかった。奥まで自身を押し込んだまま、短いストロークでさらに立香を責め立てる。亀頭に子宮口が吸い付いてくる感覚がたまらなかった。
「奥っ、好きっ、きもちいの、止まらないよぉ……! あ、あっ、イく、イっちゃうっ、イくイくっ、んあ、ぁっ……、~~~~~~っ!」
生理的な涙で潤んだ眸が、ナイトテーブルのランプの燈を吸っている。熟した果実のようにとろけきった眸は、テスカトリポカの中にある、雌を孕ませてやりたいという雄としての本能を駆り立てた。孕ませるなら避妊具を外せばいいだけの話だが、立香はそれを望んでいない。
「射精すぞ」
最奥に留まったまま止めた腰を捻るように動かして子宮口を轢き潰し、放熱した。
「……は……」
長く息を吐いて、征服した雌から離れる。避妊具の先端では白濁が溜まりを作っていた。組み敷いた立香の身体は、硬直と弛緩を不規則に繰り返している。
ぬめる薄膜を外して口を縛って枕元に放り出し、テスカトリポカはふたつ目のコンドームの封を切り、まだ勢いを失くしていない自身に装着した。
「今、イったばっかり、だからぁ……!」
「気をやらないでくれよ」
膝裏を掴み取り、足を大きく開かせて、今度は熱くとろけた胎内の最奥目掛けて一気に挿入した。ぬめる嵌合部分が密着し、子宮口が先端に吸い付いてきた。
「ひうぅ……! あ、そこっ……あ、あぅ……っ」
テスカトリポカは立香の様子を窺いながら、胎を拓き、満たしていった。立香には不随意な快感に全身を支配される感覚を知ってほしかった。
否、夜の間くらいは、我慢ばかりしている彼女からプライドも自制心も引き剥がして、ありのままの姿にさせてやりたかった。ただただ快楽に溺れさせてやりたかった。その結果、処女だった娘の身体は、いまや魅惑的な女の身体になった。もっともっと淫蕩になってしまえばいいとさえ思う……
最奥を突く規則的な律動から、のろのろとのの字を描くように腰を動かす動きに切り替え、立香の「いいところ」を摩擦してやりながら、親指の腹ですっかり硬く勃起したクリトリスを押し潰す。
「ひあ、あっ、きもちぃ、のっ、ぁ、あっ、イく、イくっ、またイっちゃううぅ!」
悲鳴を上げて、頭を仰け反らせて立香は失神した。
「……おっと」テスカトリポカは微苦笑した。「刺激が強すぎたか?」
頬を何度か叩いて起こすと、生理的な涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、立香は彼の名前を呼んだ。嗜虐心を擽られ、テスカトリポカはたまらず彼女の首筋に歯を立てた。それだけで、胎内がうねった。
「気持ちいい……もっと、えっちなこと、教えてください……」
立香はテスカトリポカの首に腕を引っ掛けて懇願した。
「いくらでも、教えてやるよ」
彼は熱のこもった手を取り、シーツに縫い付けた。
夜が快楽に染まっていく。コンドームの残数は、あとひとつになっていた。
青 / 親愛
微小特異点の調査から戻って二日後の夜、立香はテスカトリポカの部屋にいた。
彼が淹れてくれたショコラトルを飲みながら微小特異点での出来事を話し、次のデートの約束を取り付け、明日の朝食の話をしているうちに、気が付けば日付が変わっていた。
「今夜はここで寝てもいいですか?」
手の中の空になったマグカップからテスカトリポカに視線を移す。彼は柔和な笑みを浮かべ頷き、咥えていた煙草に火を点けた。
「そうしろ。明日はオフだろう? ゆっくり休め」
ローテーブルに使い込まれた愛用品である真鍮製のライターが置かれた。天井の燈を吸って鈍く光るそれを、立香は触ったことがない。神は唯一のものを好む。このライターもきっと、世界にひとつだけなのだろう。
「オレは一服してから寝る」
「うん」
立香はソファからベッドに移動した。いつもの位置で寝転ぶと、シワひとつないシーツはまだ冷たかった。
煙草を喫い終えたテスカトリポカは、ベッドサイドのナイトテーブルに装飾品を置き、シャツを脱いでベッドに上がった。煙草の残り香が立香の鼻先をくすぐった。
「ねえ」
「ん?」
「寝る前に、ぎゅってしてほしいです」立香は小さな声で言って、彼に向けて両手を広げた。「……だめ?」
「おやすみ前のキスがほしいのか」
テスカトリポカはシーツに手を突くと身体を傾けた。唇へのキスを期待して目を閉じると、瞼に熱を感じた。うっすらと目を開ける。腰から抱き寄せられ、今度は前髪にキスをされた。次に耳。
「くすぐったい」
戯れのキスに、立香はくすくすと笑ってしまった。
普段されない場所にキスの雨を浴びた。親しみのこもったキスは心地よかった。大好きな人に甘やかされるのは嬉しい……
予想外なことに、甘美な抱擁とキスは、立香の中で眠っていた劣情を呼び覚ましてしまった。
「したくなっちゃった」
もじもじと膝頭を擦り合わせる。淫らな女と思われたくなかったが、本能は抑えられそうになかった。胎の底はすっかり熱くなっていた。
「抱いてやる」
テスカトリポカは起き上がると、指を鳴らして部屋の燈を落とした。同時に、立香の傍でナイトテーブルのランプがオレンジ色の薄燈を放つ。
あのライターの火のように、立香の中で情欲が燃えている。
ベッドの下に一枚、また一枚と服が落ちる。下着はテスカトリポカが脱がしてくれた。
未開封のまましまわれていたコンドームの箱を取り、フィルムを剥がしながら、立香はぼんやりと考える。十個なんて、またあっという間だろう、と。
体温が恋しくて、強く抱き締められたくて、立香はテスカトリポカの胸に身体を預けるようにして座り込んだ。うしろから抱きかかえられるようにして腕に収まると、肌が密着した。
下腹部を這っていた手が、太腿の間に滑り落ちて、指先が媚肉に触れた。そこはもう濡れていた。
「……ん」
立香は足をめいっぱい開いた。指が雌孔をほじくるように奥を割り、浅い場所を擦り上げ、溢れる蜜を絡め取っていく。テスカトリポカの手が前後して、羞恥心を掻き立てる水音が立香の熱い吐息に混じる。
「あっ、んっ」
根元まで突き入れられた指が胎内を搔き乱す。
「あ、そこっ、っ……はぁっ……きもちい……あ、ああぁ……!」
胎の内側がゆっくりとほぐされ、暴かれていく感覚は夢心地に似ていた。
不意に、テスカトリポカは立香の耳元に唇を寄せた。
「立香」
親しみのこもった低く滑らかな声はただ一言、名前だけを紡いだ。それだけで、立香の全身から力が抜けた。
「~~~~~っ!」
媚肉の隘路を拓いた指が胎内でわずかに曲がった。その一刹那、彼女は瞬発的に沸点に達した。
「ひゃうっ!」
ジャガーの子供の鳴き声のような悲鳴を上げた立香の股座から水飛沫が放たれた。痙攣に合わせて、反った胸元で乳房が揺れる。
「指を喰いちぎられそうだ」
引き抜かれた指は濃い愛液の膜に包まれていた。立香の割れ目からテスカトリポカの指先にかけて、名残惜しそうに粘っこい糸が引いている。
「テスカ、トリポカ……」
立香は力の入らない身体を震わせて身じろぎした。
「ほしい、です。挿れて」
ぎこちない動きでテスカトリポカと向かい合った。ふたりの間では、男の剛が屹立している。へそをゆうに越す逞しいそれに、今から胎を暴かれる……立香は唇を引き結んだ。喉がひどく渇いていた。
慣れた手付きでコンドームを着けると、テスカトリポカは「こい」言った。
入墨の入った双肩に手を置いて膝立ちになって、立香は慎重に腰を落としていく。指とはまったく違う圧倒的な質量が胎を穿った。腰を完全に落とすと、最奥にテスカトリポカを感じて、声を絞り出すだけで精一杯だった。
「ぅあ、すごい……はぁっ、これ、奥っ、ん……!」
言葉は最後まで続かなかった。胎の最奥にテスカトリポカがいる……立香は全身から力が抜けるのを感じた。
抱き合い、キスをした。長い舌に口腔を撫でられ、舌を掬い取られ、意識がとろけはじめる。
「テスカトリポカとのちゅー、好き……」
息を継いで、何度も深い場所で交わった。舌先を吸われて、下腹部が疼いた。
テスカトリポカの掌が身体の輪郭をなぞるように下りていく。手は尻で止まった。立香はふーっと息を吐いて、腰をくねらせた。前後に小さく揺れるように動くと、胎内は収斂を繰り返して悦んだ。夢中で、尻を擦りつけるように何度も腰を動かす。抜き差しで感じる快感とはまた違った刺激が漣のように全身に押し寄せてくる。繋がって間もなくして甘イキした。立香は顔を上げ、テスカトリポカを見上げる。
「わたし、だめ、気持ちよくて、動けない」
呂律はほとんど回っておらず、うまく言葉になったかわからない。
立香がしおらしく首を横に振るのを見て、テスカトリポカは目を細め、彼女の額にキスをして、自身に跨った華奢な身体を揺さぶりはじめた。動きは少ないものだったが、胎に響くような振動が立香に伝わった。唇だけでなく、腹の奥深くにある子宮にも、テスカトリポカはキスをしていた。
「あ、あ、ああっ……」
テスカトリポカの首に腕を引っ掛けて、立香は弱々しい声を上げた。俯くと、繋がっている部分が見えた。肉色の粘膜の間で、太い血脈を張り巡らせた男性器がぬるぬると動いて、出たり入ったりしている……
「気持ちいいか」
「うん、気持ちいい」
どろどろに溶けた熱い快楽を胎に流し込まれるような交わりではなく、親愛に満ちた、身も心も満たされるような交合に陶酔する。
「いっぱい、触ってください……」
熱を帯びた男の手を頬に導いて切望すると、たしかめるように頬を撫でられた。あたたかくて、優しい触れ方だった。
「立香」
穏やかな声音で名前を呼ばれる。立香は返事をして抱き着いた。体温と鼓動が重なって、甘ったるい抑えがたい感情が心臓を灼く。
「テスカトリポカ……」
立香は衝動的にテスカトリポカにキスをした。
「好き、好き……大好き……」
夢中でテスカトリポカを味わった。立香の拙く性急な舌使いにも彼は応え、余裕を崩すことはなかった。
指を互い違いに組んで握り合った。テスカトリポカの手は立香の手よりもずっと大きい。黒い爪の先が、ランプの燈を反射させて黒曜石のように照っている。
火照る肉体がほどけて、大好きな人とひとつに混ざり合うような感覚を覚え、立香は泣きそうにすらなった。快楽以上の甘い感情は若き乙女の心を満たし、夜を溶かしていった。
赤 / 生殖
頬に触れた手の温度は心地よかったが、立香を見下ろす双眸には親しみというものがなかった。
服装はいつもの黒のテスカトリポカが好む現代に合わせたスーツだ。しかし、今目の前にいるのが黒のテスカトリポカではないことを、立香は本能的に察した。
「赤のテスカトリポカ、ですよね?」
テスカトリポカを見上げて問うと、顎を掴まれて持ち上げられた。爪が首元の薄い肉に食い込んで、身体が強張って、立香は思わずごくりと唾液を呑み込んだ。
「わかるようになったか」
彼が掛けたサングラスの褐色のレンズの奥で切れ長の目が細まって、低い滑らかな声が立香の耳朶を擽った。
「わかりますよ」
赤のテスカトリポカ――死と再生の神。炎と未来の神。狩猟と戦争の神 。皮を剥がれた我らが主。
様々な呼び名があるが、テスカトリポカが見せる三つの神格のうち、赤は軍国主義の国家であるアステカらしく、最も好戦的で苛烈な性格だ。立香が戦う意志を捨てた時、赤のテスカトリポカが真っ先に彼女の命を握り潰すだろう。
いつもは戦士の姿をしている彼がこの姿で現れたのは珍しい。
「どうしてあなたが?」
立香は隣に腰を下ろすテスカトリポカを目で追った。
「オマエを抱くためにきた」
「……えっ」
ストレートな告白に、じわじわと顔が熱くなるのを感じながら立香はテスカトリポカを凝眸した。部屋着に着替えたばかりだったが、すぐ脱ぐことになるとは。
立香はベッドに上がり、ナイトテーブルの抽斗からコンドームの箱を取り出した。蓋を開けると、残りは三つだけになっていた。
――使い方、わかるのかな。
連なっている部分を切り離しながらそんなことを思った。枕元に置いた箱の横に、目につくようひとつだけ置くことにした。
「部屋の燈、消してもいいですか」
「消すな」
「ここの燈は点けますよ?」
ヘッドボードを指差した。立香の部屋にはランプがないが、ヘッドボードに埋め込まれたライトがある。
「このままでいい」
「わかりました」
立香は羞恥心に背中を叩かれて俯いた。明るいままセックスをするのも、赤のテスカトリポカとセックスをするのもはじめてだった。
立香が服を脱ぐ様子を、テスカトリポカは眺めていた。
「脱がないんですか?」
そう声を掛けてようやく、テスカトリポカも魔力で練り上げられた霊衣を取り払った。見慣れている裸なのに、ドキドキした。
テスカトリポカはすぐに立香の身体に被さった。指が肌を伝い、掌が乳房を包み込む。肌の下で疼きを感じて、立香は息を漏らした。
大きな手はするすると脇腹を撫で摩るように括れた腰に滑り落ちて、立香の小振りな腰骨を掴んだ。年頃の女の下腹部周りについた柔らかな肉を、テスカトリポカは品定めでもするように触る。
「悪くない」
手はそのまま太腿に移動し、指が側面をなぞっていった。立香が身じろぎして折り曲げた足を引き寄せると、彼は膝裏を掴み、ハの字に大きく開かせて間に座した。
尻肉を鷲掴みにされ、燈の下で、女の部分を広げられた。ぬちっと湿った音がした。燈に暴かれた秘裂は、触れるだけの愛撫と視線だけで濡れそぼっていた。
テスカトリポカは愛液を垂らしていやらしくひくつく粘膜を眺めている。舌でもいい、指でもいい。喜悦に潤んだそこをめちゃくちゃにしてほしくて、立香は甘い期待を秘めた眼差しを彼に向けた。
「ここを」テスカトリポカの指の腹がとんとんと臍の下を叩く。「オレ以外の男に見せたことはないな?」
「あなただけです。えっちするのも、あなたがはじめてだったし……」
言い終わる前に、テスカトリポカの指が太腿に食い込んだ。しなやかな筋肉がついた身体が前屈になって、頭が低く下がって、厚く長い舌がぬらぬらと濡れて照った立香の股座を舐め上げた。
「あっ」
ちろちろとくねる舌先がクリトリスを詰り、粘っこく泡立った真っ白な愛液を絡め取る。
「んっ」
下腹部に灯った官能の灯火が明滅する。身体の芯をとろけさせるほどの快感が立香を刺激した。テスカトリポカは立香の敏感な粘膜をねぶり、溢れ出る愛液を啜り、肉の詰まった膣肉の隙間に舌を捩じ込んだ。自在に胎内で動く指とは違った滑らかな動きに、立香は喉を反らして善がった。浮き上がった足の先がぴんと伸びて、全身の筋肉が強張った。
「ああ、快楽を知った雌の顔だ」
テスカトリポカが顔を擡げ、口の端を舌先で拭った。
「オマエが捧げた純潔を貰い受けたのは黒か」
彼は身体を起こし、立香の両足の間に深く割り入り、枕元のコンドームを一瞥した。
「アイツがオマエに教えたのは快楽だけのようだな。今からオレが交わりというものを教えてやる」
立香が瞬きをした一刹那、テスカトリポカが腰を突き出した。内臓を押し上げるような圧迫感に、立香は小さく声を漏らした。
「……! ゴムッ、して……、~~~~っ! あぅっ……!」
最奥を穿つ一突きに、立香の声は身体と同じく震えた。避妊具なしでの挿入を止められないまま、抽挿がはじまった。
「ひぅっ、あっ、だめ、だめぇ……!」
立香は両腕を突っ張ってテスカトリポカの胸を押しやったが、びくともしなかった。
「ゴム、してっ……ナマはだめぇ」
テスカトリポカの肉体は生身のヒトだ。男と女が交われば子ができる。だからセックスをする時は避妊をする。立香はコンドームを切らさないように気をつけていたし、生理のあとの危険日も気にしていた。そしてまさに今、立香は最も妊娠しやすい期間だった。
「危険日なのにっ、ぁ、赤ちゃんできちゃう……」
「胎を耕し、種を植える。それが男と女の交わりだ」
乳が出そうな丸い胸に、柔らかな肉が付いた下腹部。肉付きのいい尻……華奢だが、立香の肉体は成熟していることをテスカトリポカは燈の下で確認していた。
「あ、う、あっ、あぁ、あっ……!」
テスカトリポカによって拓かれた胎の中を何度も突かれ、反射的に出る声を抑えられない立香の中で理性が警鐘を鳴らすが、快楽を引き金にして官能の熱を放つ肉体は悦び、子宮口はテスカトリポカを受け容れようと降りてきていた。気持ちのいいところを擦り上げられ、弱いところを責め立てられ、怒涛がめまぐるしく立香を呑み込んだ。
はじめての中出しセックス。子作りセックス。テスカトリポカの赤ちゃん……頭の中がぐちゃぐちゃになった。快楽に侵された本能が、このまま抗わずに種付けされろと囁く。
「……よく締まるな」
「あっ、だめっ、ん、ナマでえっちしたらだめなのにぃ、きもち、いいよぉ……!」
激しく腰が打ち付けられる度に生々しい音が響く。浮かんだ腰骨を挟み込んでいた手が立香の腹の横で突っ張った。テスカトリポカから逃げることは許されなかった。乳房が動きに合わせて弛み、立香の快楽に屈服した嬌声がシーツの上で弾ける。薄膜の隔たりのない肉と肉の交わりの中で、降りてきていた子宮口を突く短いストロークが長いものへと変じる。入口まで引いたものが焦らすようにゆっくりと奥を割ると、強烈な甘い痺れが立香の脳髄に肉薄し、形のない官能が立香の目の前で火花を散らした。子宮口をつつかれ、重たい衝撃が胎の底に響いて、立香は声も出せないまま背中を仰け反らせて果てた。
「オレは他の男に耕された胎になど種は植えない」
沸点に向けた荒々しい腰使いに、立香は戦慄いた。突き立てられた太く硬い男の昂りが蕩けた胎の中をごつごつと突き上げる。
「あっ、あ、んぅ、いつものえっちと違うっ、乱暴に中出しされちゃうっ……!」
部屋の燈よりも強烈で真っ白な快楽が立香の視界を埋め尽くす。熱いものが胎の中に注がれるのを立香は感じた。子宮口は攣縮を繰り返し、テスカトリポカの精液を一滴も零さないように呑み込んでいく。
絶頂の余韻に小刻みに痙攣している白い女の身体から離れると、テスカトリポカはふっと吐息をついて乱れていた息を整え、泡立った濃い精液で内股を濡らして放心している立香の身体を転がしてうつ伏せにさせた。
「尻を上げろ」
「……はい」
発情した獣の雌が雄を受け容れるのと同じく、立香は従順だった。高く持ち上げられた肉付きのいい尻の間に、勢いをなくすことなく屹立した昂りを押し当てると、テスカトリポカは立香の胎の内側に沈んだ。粘膜と粘膜が擦れて、じゅぷじゅぷと淫らな音が鳴った。精液と愛液が絡み合った胎の中は熱くうねっている。テスカトリポカは立香の薄い腹を抱きかかえて腰を打ち付け、種付けを再開した。
「あっ、ああ、お腹の中っ、熱いっ」
テスカトリポカは生身の交合を知ったばかりの淫欲にほだされた雌孔に荒々しくピストンを叩き込み、胎の奥を挽き潰し、立香を徹底的に蹂躙した。
「孕め」
テスカトリポカは背中を丸め、立香の耳の傍で囁いた。それだけで、胎内が締まった。
立香の片腕を引っ張り、股座を隙間なく密着させて腰を揺する。込み上げてくる射精感のままに、テスカトリポカは征服した最奥に吐精した。
「……っ……、んっ……」
枕に突っ伏して、立香は快楽の残光の中で震えていた。
呼吸に合わせるようにくぱっと開いた薄桃色の秘裂の間から、吐き出したばかりの精液が溢流するのを見詰めていると、征服欲がテスカトリポカの腹の底を焦がした。
立香を孕ませるのは、彼女の純潔を奪い快楽を分かち合う黒ではなく、彼女に親しみを向け愛を確認し合う青でもない。子孫を残すという、執着に似た原始的なヒトの生存本能を知る赤だ。
「交わりに快楽や情など必要ない」
テスカトリポカはそれだけ言って、霊衣を纏いベッドに腰掛けた。
「わたしは……」
立香のか細い声に、テスカトリポカは首を巡らせた。
彼女は身体を横たえ、テスカトリポカの方へ顔を向けていた。眸は熱っぽく潤んでいる。
「わたしは、赤のテスカトリポカのことも好きです……あなたにとってはただ子孫を残すためだけの行為かもしれないけど、わたしにとっては、大好きな人とする大切な行為なんです。わたしはあなたと見詰め合いたいし、キスもしたい。あなたに触れたい。だめですか?」
「……そうしたところで、どうなる?」
立香は身体を起こすと、テスカトリポカと距離を詰め、おそるおそるとでもいうように彼にうしろから寄り掛かるようにして抱き着いた。テスカトリポカの肩に載ったほっそりとした腕が首に回り、鎖骨の上で指が交わる。立香の剥き出しの体温がテスカトリポカを包み込んだ。
「わたしはあなたのことも知りたい。だって、あなたはわたしの神様だもん」
テスカトリポカはなにも言わなかった。代わりに、腰を上げ、立香を見下ろし、顎を掴んで薄く開かれた唇を塞いだ。
舌を差し込み、歯列をなぞって、奥に引っ込んでいた熱い塊を吸った。息を継ぐ間も与えず立香を味わうと、テスカトリポカは濡れた唇から離れた。
「神に触れることを許してやる」
鼻先が触れる距離で立香を見据える青い双眸に、一握の熱情と親愛がよぎった。
黒でもなく、青のものでもない情愛の一片を、立香はたしかに見た。
衝動
部屋の燈を消して横になると、すぐに眠気がやってきた。
静寂に身を委ねてうとうとしていると、ドアが開く音がしたが、夢なのか現実なのかわからなかった。眠気と覚醒の狭間を漂っていた意識は、耳朶を打つ足音で覚醒の方へ引き摺られた。
視線をずらすと、足元の人感センサーライトが点いていた。
「誰?」
目を瞬かせ、身体を起こして誰何する。返事がない。
足音が傍で止まった。手探りでナイトテーブルのランプを灯す。部屋の中が仄燈に照らし出される。
「……テスカトリポカ……」
ベッドの傍らにテスカトリポカが立っていた。うすぼんやりとした燈の中に立つ彼は、なにも言わずに立香を見下ろしている。サングラスのレンズがランプの燈を吸って反射しているせいで、目は見えない。
テスカトリポカはベッドの縁に腰を下ろし、サングラスを外した。鋭い蛇のような目が立香を捉える。冷ややかさすら感じる端正な顔を見据えて、下腹部に疼きを覚え、立香は唇を引き結んだ。目の前にいるのは、赤のテスカトリポカだ……
立香がこうして彼と向き合うのは、一月ぶりだった。あの夜のことを思い出しながら、立香は身体を強張らせた。こんな時間に部屋に来るなんて、目的はひとつだろう。
「わたしを、抱きにきたんですね」
「知りたいことがある」
肯定でも否定でもない言葉が仄暗闇に弾ける。立香は不意打ちを食らって目を瞬かせた。
「黒と青の中には常にオマエがいる。何故だ?」
テスカトリポカの片手が立香の顎を掴んだが、立香は怯まなかった。
「甘い心臓を持つ未熟なオマエとオレたちを繋ぐ楔は戦いだけではないはずだ。しかし、オレにはそれが一体なんなのかまるでわからん。つまるところ、オレもオマエを知りたくなった」
歯を食い縛っていると、ランプの燈に縁取られた白い顔が近付いてきて、唇を塞がれた。顎を緩めると、唇の隙間から舌が滑り込んできて、上顎をなぞられた。吐息を呑み込まれ、舌を絡め取られ、唾液を流し込まれる。
「ん、っは……」
苦しくなって、酸素を求めて離れて息を継ぐ。
昂ぶりを飼い慣らす双眸が目の前にあった。テスカトリポカに触れたくなって、立香はブランケットをはらいのける。
「わたしも、あなたのことを知りたい」
それ以上言葉は必要なかった。交わった視線だけで十分だった。立香は赤のテスカトリポカを受け容れることにした。
衝動のままに服を脱ぎ、放り投げた。同じように服を脱ぎ、雪崩のように被さってきたテスカトリポカの重さを感じながら、立香はほうっと熱のこもった吐息を吐き出して、身体の力を抜いた。
白く温い柔肌を、テスカトリポカの少し冷たい手が這い上がっていく。乳房を寄せられ、頂を摘まみ上げられてこりこりと捏ねるように転がされ、立香の下腹部で渦巻いていた官能が刺激される。
「おっぱい、もっといじめてほしいの……」
立香は懇願した。テスカトリポカの唇が吸い付いて、淡く色付いた芯を軽く歯を立てられた。熱い口腔でくねる舌がぷっくりと膨らんで硬くなった乳首に絡みつく。ちろちろと上下に弾かれるように掻かれると、快楽の火花が散った。得も言われぬ強い刺激に、立香は甘い声を漏らし、総身を震わせる。
「あっ、ん、ぅ」
胸に吸い付いたままのテスカトリポカの大きな手が、立香の悩ましい身体の輪郭を撫でるようにして降りていく。やがて両手は、平たい、うっすらと脂肪のついた下腹部で止まり、腰を挟み込んだ。
「あなたといっぱいえっちしたから、こんな風になっちゃったんですよ。……処女だったのに」
テスカトリポカはランプの燈に暴かれた夭とした肉体を見下ろした。快楽という養分を吸って育った瑞々しい果実は食べ頃だ。
「馳走を味わうとしよう」
官能の熱にとろけた表情で、立香は折り曲げた足をさらに大きく開いた。間に座すテスカトリポカの長い指が媚肉を広げ、愛液に濡れた粘膜がくぱっと開く。快楽を求めてひくつく亀裂を、彼は舌で蹂躙した。充血して膨らんだ蕾をねぶられ、脳天を突き抜ける痺れが立香を襲う。
「あっ、あ、ああぁ……!」
喉を反らし、色に浸った声を上げて愛撫に身を委ねる彼女の足の間で、ぬちりぬちりと粘っこい水音が弾む。テスカトリポカの長く厚い舌が、ぴっちりと閉じた膣肉を割っていく。敏感な粘膜の間を擦られ、それだけで立香は果てた。
夢心地の中で、鼓動に合わせて疼く胎内の隙間を埋めてほしくて、立香は自ら「もう、挿れてください」愛液でぬらぬらと照るそこを指で広げた。
「アレを使ってやる」
「……アレ?」
「交わりに不要な、黒と青も使っているものだ」
「あ、コンドームのことですか」
立香はナイトテーブルへ手を伸ばし、抽斗から手探りで箱を取り出した。この間のものは使い切ったから、新しいものを支給してもらったばかりだ。フィルムは剥がしてある。
「使ってくれるんですね」
テスカトリポカはなにも言わなかった。箱を開けて中身を見て、連なっていたコンドームをひとつ切り取り、封を破った。
血管を浮かせてそそり勃つ凶悪な蛇を見据え、立香は喉を鳴らす。人工の薄膜が蛇に被さる間も目を逸らすことができないでいた。
赤のテスカトリポカとのセックスは、快楽を分かち合うものではなく、親愛をたしかめるものでもない。生殖行為だ。「男と女の交わりとは胎に種を植えることだ」と言っていた彼が避妊をしてくれる……立香の中で、小さな喜びが込み上げる。
張り詰めた蛇が立香の胎内へ潜り込んだ。
「……あっ、ん、んん……!」
子宮口まで一気に辿り着いたテスカトリポカは、短いストロークで立香を責め立てた。動きに合わせてベッドの足が軋み、立香の嬌声と愛液でぬかるんだ肉と肉がぶつかり合う音が仄燈に響く。
立香の小振りな腰骨を掴み、深々と突き入れた雄を抜き差ししながら、テスカトリポカは自身の沸点まで容赦なく彼女を蹂躙した。
動きを止めて、浅い部分まで腰を引いて上壁を擦り上げると、立香はか細い悲鳴のような声を上げて善がった。
「テスカ、トリポカ、きて、ください」
テスカトリポカは伸ばされた立香の両腕に上半身を預けた。背中に回った手は熱を帯びている。
「好き、あなたが、好きですっ」
火照る肌越しに伝わってくる恋慕の情に、テスカトリポカは舌なめずりをして、緩やかに揺すっていた腰を荒々しく打ち付けた。
「オレを慕うのならば、ありのままのオマエをオレに見せろ。本能を剥き出にしろ」
立香が本能に溺れる姿が見てみたかった。ヒトの本能を黒や青よりも理解しているテスカトリポカは、本能であれば、たとえ性愛であっても嗤ったりはしない。
「あっ、ぅ、んんっ……!」
立香は混乱しているようだった。そんな彼女を快楽の底へ突き落すために、テスカトリポカは降りてきている子宮口めがけて腰を突き出した。とちゅとちゅと胎の奥を突かれ、たわわな乳房を揺らし、立香は息を弾ませる。
「あっ、奥っ、好き、好きっ」
熱を溜めた胎の奥を擦り上げられ、立香の身体は快楽に支配されていった。浅いところまで腰が引き、一息に最奥を穿たれた時、しなやかな身体は反射的に強張り、意識は極致感に呑み込まれた。
「~~~~~、……ぁ」
テスカトリポカは沸点を迎えた立香をさらに責め立てた。濡れた肉同士がぶつかる生々しい音が勢いを増し、燃え上がった劣情は手に負えなくなっていく。
「黒に快楽を叩き込まれた割には、あっさり屈服する」
テスカトリポカは立香の両腕を引っ張った。腕の間で寄せられた丸い乳房では、乳首が弄ってほしいといわんばかりに主張している。掴んでいた腕から手を離し、爪の先で乳首を弾くと、立香の総身がびくりと拘攣した。
「あんっ、きもち、い……」
被虐的な反応を示され、テスカトリポカの中で加虐心を擽られる。あちこちに咬みつき、足腰も立たなくなるほど、めちゃくちゃにしてやりたくなった。沸き立つ加虐心のままに、立香の肩口に歯を立てた。離れると、形のいい赤い歯型がくっきりとついていた。黒も青も残さなかった痕を見て、テスカトリポカはほくそ笑んだ。
「もっと、ひどく、して」
「……誰に仕込まれた? 黒か?」
「違う。あなただからっ、してほしいんです」
立香のおねだりに、テスカトリポカは目を細めた。
そして、隙間なく密着して、首筋や鎖骨を愛咬した。鬱血のあとも残した。歯を立てると、胎内はテスカトリポカをキツく締め上げた。
「アレもしてほしいです、獣みたいに、うしろから……いっぱい、突いてください」
「オレを煽るか」
テスカトリポカは一度立香の胎から去った。それから立香を四つん這いにさせ、再び胎を貫いた。
「っ、うぅっ……」
枕に顔を突っ込み、立香は唸り声を上げた。テスカトリポカは持ち上がった尻に手を置いて、胎の奥を何度も突き、剥き出しになった性愛に食らいついた。
親愛。恋慕。性愛……色を変えて向けられる立香の感情は新鮮だった。己に向けられるこの女の想いをもっと喰らいたいという渇望がテスカトリポカの胸を刺激した。
「これ、好き、こんなっ、はげし、のっ、知らないっ、あっ、イくっ、ん、またイっちゃうぅぅ……!」
立香はテスカトリポカから与えられる快感に喜悦し、声にならない声を上げた。
突かれながらも痙攣する薄い腹を抱きかかえ、テスカトリポカはラストスパートをかけた腰の動きへと切り替えた。
立香の白い背中に視線をやり、最奥で吐精し、纏わりつく肉襞を逆撫でしながら立香の身体から離れた。
避妊具の先端に、吐き出したばかりの子種が溜まっている。ぬめる薄膜を取り外して口を結び、シーツに投げ出して、テスカトリポカは立香を見下ろす。一度では、昂ぶりは治まりそうにない。
「オマエは弱いが、歩みを止めずに戦う。黒と青はそんなオマエに価値を見出したらしいが……なるほどな。黒と青に渡すのが惜しくなった」
勢い付いたままの自身に新しい避妊具を装着しながらテスカトリポカは言った。
仰向けになった立香に覆い被さって、テスカトリポカは琥珀色の双眸をじっと見詰める。
白い手が伸びてきて、頬に触れた。
「わたしは、あなたのものですよ」
「それは、黒と青も含まれているだろう?」
「それじゃあ、いけないですか?」
「ああ。オマエを奪いたくなった」
テスカトリポカは立香の顎を掴んだ。距離が詰まって、唇が重なった。身体の奥深くで心臓と同じく力強く脈動する衝動と同じような、そんな口付けだった。
色濃い夜は、親愛も恋慕も性愛も呑み込んでいった。迸る熱情は赤く、沸き立つ血潮と同じ色をしている。