兄者とふたりきりの時に、掌を重ね、互い違いに指を交えて握り締める。そういう時、兄者は「オウケンの手はぬくいな」と笑って、手を握り返してくれる。
ベッドに寝転んで添い寝をする時、眠りの底へ落ちるまで、体温を共有したくて兄者を抱き締める。
まるでぬいぐるみを抱き締めて眠る幼い子供のようだが、これが私なりの、ひとつの愛情表現なのだ。
愛情表現は他にもある。
呼ぶ。
触れる。
抱き合う。
見詰め合う。
口付けを交わす。
生まれた時から、兄者からはたくさんの愛をもらった。それを少しずつでも返していきたい。私からの愛を与えていきたい。蜜月になった今、強くそう思う。地の底から地上へ溢れんばかりの、眩い透徹とした愛を、私は兄者に捧げたい。
私の拙くも瑞々しい親愛は、兄者に伝わっているだろうか。
今夜も穏やかな夜がくる。
今宵も、懐中燭台を手に兄者の寝所を訪う。
ナイトテーブルの上で、燭台に灯った火が瞬いた。
「兄者」
短く切り揃えられた薄桃色の爪の先に尖らせた唇を押し当てると、兄者は私の頬を包み込み、額に口付けてくれた。
ああ、嬉しい。なんという幸せだろう。
兄者の胸元へ潜り込む。耳を寄せると、厚い胸の下で心臓が力強く拍動しているのが聞こえた。私たちは今この瞬間も生きて、睦み合っている。
「今夜は甘えたがりか?」
兄者は背中を抱き締めてくれた。身体が隙間なく密着して、寝衣越しに体温を感じた。
鼻先が触れる距離で視線がぶつかり、くすくすと笑い合って額を重ね、幅広の唇を塞ぐ。
下唇を吸い、僅かに開いた隙間から舌を差し込んで、奥に引っ込んでいた熱い塊を掬い取る。つつき、押し付け、包み込み、歯を軽く立てて、兄者を味わい尽くした。先に息を継ごうと離れたのは兄者だった。間で唾液の糸が引いて切れた。
浅く息を吸って、兄者を追い立てるように口腔へ舌を押し込み、物欲しげにちろちろとくねる舌先を絡め取る。ちゅ、ちゅ、と小さなリップ音が跳ねて、満足して、濡れた唇を舌でなぞる。
キスをしただけで、兄者の首元にはほんのりと血の気が差していた。湯浴みのあとや情事の際には、首元から胸元に掛けて、こうやって朱が差す。それが官能的で、艶っぽくて、たまらない。
このことを知っているのは、おそらく、私だけだろう。
「僕の、僕だけの兄者」
耳元で囁いて、縋るように背中に腕を回した。
三十七度の親愛が、じわりじわりと染みていく。