灼かれて眠れ

 テスカトリポカの膝の上に腰を下ろして背中を預けると、腹に手が回り、間もなくして剥き出しの首筋に熱を帯びた口付けが落ちた。
 ちゅっと小さなリップ音を立てて離れては触れる唇は、やがて耳のうしろで止まった。
「勃っちまった」と彼が囁くのと、尻の下に硬いものがあるのに気付くのは、ほとんど同じタイミングだった。
「わたしもしたい、です」
 劣情のままに言葉を組み立て、俯いてもじもじと膝を擦り合わせる。下腹部で交わっていたテスカトリポカの手がゆっくりと離れ、長い指に顎を掴まれた。親指の腹が下唇をなぞる。
「まずこの可愛らしい口でしてくれないか」
 耳元で官能を含んだ吐息が紡がれる。
「ご奉仕ってヤツだ。できるだろう?」
「いいですよ」
 テスカトリポカの膝から降りて、振り返る。彼は口元に笑みを湛えていた。足の付け根では、ジーンズが盛り上がっている。部屋の中に漂いはじめた淫靡な雰囲気に眩暈がした。
 テスカトリポカの足の間で両膝を突いて、髪を一房耳に掛ける。口でするのは久しぶりだった。うまくできるかわからない。少し不安になって上目に彼を見上げると、頭に掌が載って撫でられた。
「そう緊張するな。たしかにおまえさんの口淫は辿々しいが、タマまでしゃぶる健気さがそそるんだ」
「それって、褒めてます?」
「ああ、賞賛と受け取ってくれていい」
 テスカトリポカは真面目に言って、鷹揚とジーンズの前を寛げた。それに合わせて顔を近付ける。窮屈さから放たれた男の本能は勢いよく飛び出し、わたしの顔に叩き付けられた。
「…………っ!」
 弾力のある先端が頬に直撃し、びっくりしてテスカトリポカの太腿に置いた手に力がこもった。
「おっと、悪いな」
 目の前に聳り立つ性器は、血管を浮かせてぎちぎちに張り詰めている。蛇の頭ように括れた先端から下に伸びる太く長い肉色の幹が、ずいっと目の前に突き出された。男性経験はテスカトリポカしかないが、こうしてみると規格外の大きさであることを思い知らされる。
「おいおい、生娘みたいな反応をしてくれるなよ。散々見てきただろう?」
「だって、こんなに大きいとは思ってなくて」
「上手くできたら、ご褒美に胎の中を掻き混ぜてやる」
「うん……」
 おそるおそる根元に手を添える。硬くて熱い。口腔に先端を迎え入れ、ゆっくりと頭を下げていく。全部は収まらない。鼻から酸素を取り込みながら、呑み込めるところまで呑み込んだ。生き生きとした弾力を口一杯に詰めて、頬を窄めて歯を立てないように頭を前後させて粘膜で扱く。 テスカトリポカの視線を感じながら、必死でむしゃぶりついた。時々苦しくなって頭を離し、舌で尖先から半ばまで往復する。無我夢中だった。 先端だけを口の中に入れて吸っていると、手の中で全体が生き物のようにびくびくと拘攣した。ぷはっと息をついて頭を離すと、溢れていた塩辛いカウパーが舌先と性器を粘っこい糸で繋いだ。
「上手くなったな。教え込んだ甲斐がある」
 テスカトリポカに褒められて、何故か股座が熱くなった。身じろぎすると、下着が濡れているのがわかって恥ずかしくなった。
 その後も「奉仕」を続けたが、顎が疲れてきて、手で扱くか迷っていると、テスカトリポカは「もうおしまいか?」首を傾げた。
「顎が疲れちゃって……」
「なら、そこで見ていろ」
 テスカトリポカは自身を握り、緩やかに扱きはじめた。顔に被さるように屹立する男の象徴に喉が鳴る。顎が怠いはずなのに、もっと咥えていたくなった。下腹部が疼いて、ほうっと体内にこもっていた体温が漏れる。
「目を逸らすな」
 低い声のあと、ぬらぬらと濡れた一物で頬を叩かれた。それだけで、情欲に絆された理性の城壁が崩れてしまいそうになる。崩れてしまったら、本能がむき出しになってしまう。
「最後までします」
 テスカトリポカの手を掴んで止める。キャンディを咥える子供のようにむしゃぶりついた。頭を動かすたびに、じゅぽ、ちゅぽっと鳴る淫らな音が頭の中に直接響く。
「……射精すぞ」
 大きなの両手が頭を挟んだ。一気に喉奥まで突き入れられ、目の前で極彩色の影が舞った。口の中で蛇が脈打つのに合わせて、熱いものが間歇的に噴き上がる。
「ん……んっ……!」
 たっぷりと注がれた精液を零さないように慎重に頭を引く。それでも口の端から溢れ出た。顎を伝い落ちた精液はねっとりと糸を引いて床に滴り落ちた。
「見せてみろ」
 また顎を掴まれる。言われた通り、テスカトリポカを見上げて口を開け、僅かに舌を突き出して、溜まった白濁を見せ付ける。濃厚な精液は舌の裏側にも絡み付いている。 テスカトリポカはわたしの口の中をまじまじと見て、目を細めて「飲み込んでいいぞ」満足気に言った。
 意識は官能の熱に当てられて蕩けていた。精液を飲み干して、口元を手の甲で拭う。「さて、ご褒美タイムだ」 
 射精を終えたばかりなのに、テスカトリポカの足の間では、若い性が角度を付けて勢い付いていた。
 逸る気持ちを抑えて下着を脱いだ。クロッチ部分には愛液のシミができていた。下着をベッドに放り出し、彼と向き合う形で腰を下ろす。脱ぐ余裕のなかったインナーをずらすと、乳房が溢れた。
「あっ……」
 自重で肉杭に深く沈んでいく。奥を押し広げられると、甘い痺れが全身を貫いた。待ち侘びた男の存在に、身体は悦んだ。降りてきた子宮口はテスカトリポカを迎え入れ、胎内はキツく彼を締め上げた。
「あっ、これ……すごい……あっ、あぁ……!」
 テスカトリポカの首のうしろにしがみついた。
「男を知らなかったおまえがナニをしゃぶっただけでこんな風になるとはな」
 テスカトリポカの手が尻を鷲掴む。
「よく締まる。オレのナニを股で食いちぎる気か?」
「だって、おちんちん……ほしかったから……」
「ハッ、オレに身を捧げてからすっかり色を覚えちまったのか……ん? いや、教えたのはオレだな。この場合オレにも責任があるのか?」テスカトリポカは唸って、呑気に独りごちた。彼は眉間にシワを刻んでなにかを考えたあと「……まあいい。相応に応えてやるのは神として当然のことだ」ふっと吐息をついた。
 いきなりピストンがはじまった。ぬかるんだ女の部分を突かれて声が止まらなくなる。濡れた肉と肉がぶつかって弾ける生々しい音に互いの息遣いが重なる。乳房が動きに合わせて揺れた。強烈な快感が脳髄に肉薄して、なにも考えられなくなって、全身が強張った。
「んあっ、だめ、イっちゃう、イっちゃうのぉ……!」
 あっさりと絶頂を迎え、仰け反った身体が痙攣する。下から胎の奥を抉るような容赦のない腰使いに息も絶え絶えになる。
「おまえがご奉仕した分、期待に応えてやる。へばるなよ」
 テスカトリポカはそう言って肩に咬みついてきた。胎の奥に留まる浅い抜き差しは続き、快楽に追い立てられて、ろれつが回らなくなった。子宮に響く重たい振動は心臓をも震わせ、熟れた官能は本能を刺激していく。乱れる髪を直す間も惜しかった。
 意識が飛びそうになった頃、テスカトリポカは胎の一番深いところで弾けた。子宮に直接精液を注ぐように、彼は何度も腰を打ち付けて、荒々しい息を吐いた。
「まだいけるだろう?」
 答える余裕はなかった。微苦笑したテスカトリポカによってベッドに横たえられた身体は、何度絶頂を迎えたかわからない。
 覆い被さってきた彼はわたしの顔を覗き込み「夜は長いんだぜ、お嬢さん」涼し気なアイスブルーの眸を瞬かせて、舌舐めずりをした。