火の色は美しい

 くべた薪がぱちりと大きく弾ける音で、弛んでいた意識の糸が張った。

 やおら身じろぎして、ロッキングチェアに座り直す。不規則に揺れる暖炉の火を見ているうちに、いつの間にかうつらうつらしてしまったらしい。

 寝衣の上から黒いウールの上着が掛かっていることに気が付いた。オウケンのものだった。

「すまん、眠ってしまっていた」

 発した声は掠れていた。瞬きを繰り返し、一メートルほど離れた隣でアームチェアに腰掛けている弟の方を見やる。

「よく眠っていましたよ」

 オウケンは肘掛けに置いていた手を膝の上で組んだ。

「お前の前だとどうしても気が緩む」

 苦笑すると、オウケンは口端を緩めた。「静かな夜ですから」

「そうだな。いい夜だ」

 こうして暖をとって過ごす夜が好きだ。日々冥府を巡る諸問題にあまねく手ぐすねを引いているからこそ、なにをするわけもなく過ごす時間と味わえる静寂というのは、贅沢で、なによりの癒しだった。

「兄者」

 柔らかな静寂に、オウケンの穏やかな声が溶けた。

「もう少し、そちらに行ってもいいですか?」

「ああ。来い」

 オウケンは立ち上がり、椅子を持ち上げてすぐそばまで来た。絨毯に伸びた影が、火に当てられて傾いた。

 距離が詰まり、肘掛けに乗せていた手の甲に、オウケンの指が触れる。被さった手の下で掌を反転させると、指が互い違いに組み合わさった。

 視線を暖炉からオウケンに滑らせる。互いになにも言わなかった。だが、火に照らされたオウケンの眸の奥では、情熱が息を潜めていた。

 身を乗り出し、そのまま引きあうようにして額を重ねる。

「いい夜だな、ほんとうに」

 乾いた薪が火の中で鳴った。

 弟との関係を知っているのは、赤々と燃え盛る火だけだ。