常に黒衣で隠れているが、腕甲で覆われている山の翁の右の前腕と甲には、楔のように、鎖で繋がった杭が打ち込まれている。
貫通した杭も、弛むことなく張る鎖も、最早甲冑の一部のようだが、見ていて痛々しい。信仰心故に、彼は肉体ですら抑制する。自戒的なのだ。どこまでも。
隣を歩く山の翁の垂れ下がった腕を見やる。杭と鎖。胸に込み上げてきたのは、憐憫でも恐れでもなく、愛おしいという感情だった。
急に彼に触れたくなって、片腕におそるおそる手を回して身体を寄せた。黒色の手甲は冷たい。
「どうしたのだ、契約者よ」
山の翁は歩みを止めた。それに倣って立ち止まる。
「なんとなく、こうしたくなったんです」
彼の腕に抱き着いたまま言う。掌を滑らせて、杭を避けるようにして、わたしよりもずっと大きな掌に触れ、縋るように指を絡ませる。
「だめ、ですか?」
顔を上げると、山の翁の髑髏の面がわたしに向いていた。眼窩では、青い炎が揺れている。
一拍。二拍。返事がない。心臓が早鐘を打ちはじめる。
「貴殿が望むなら、我は構わぬ」
彼はそう言って、また歩き出した。
「よかった」
指を握る手に力を込める。体温が少しずつ山の翁に移るのが嬉しかった。
「貴殿の手は、温いな」
山の翁の手がわたしの手を包み込む。胸にじんわりと幸福感が広がっていく。
彼に寄り添って、歩幅を合わせて自室まで歩いた。