冥府に屍山血河の歴史を刻んだ玉座を巡る苛烈な干戈は、我ら革命軍の勝利となり、暗澹とした冥府にもようやく泰平の黎明が訪れた。
兄者が玉座に就いて日は浅いが、荒廃していた冥府は確実に復興していっている。
治安の回復や、建造物の修繕、法の制定、他にも、経済発展の下支えとなる施設や設備の整備など、冥府を盤石な国にするためにはやるべきことは多く、問題は山積みだが、城市には燈が増え、民にも笑顔が戻りつつあった。
王のため、冥府の民のために、少しでも尽力しようと研鑽を積む日々の中で、冥府騎士団の団長に任命されることになった。
騎士団長叙任式は、王直々に執り行われた。
「顔を上げよ、私の騎士。私の剣」
「私は王の剣。民の盾。我が身は御身のために」
跪き、王を見上げて決意を紡ぐと、王に対する忠誠心はますます強くなった。誓いを立て、剣に口付け、正真正銘、冥府騎士団の長となった。肩書をひけらかすつもりも、驕るつもりもない。規律を重んじ、博愛に満ちた最強の騎士団を目標に、更なる高みへ邁進せんと意気込んだ。
騎士団長叙任式で立てた誓いは、胸を熱くさせた。これからは、兄のために、国のために、民のために尽くすのだ。
なにより、そばで兄のことを支えられる。それが嬉しかった。
「頼もしくなったな、オウケン。威風堂々としていて、皆の規範たる者の風格が出てきたじゃないか」
食堂に向かう途中の廊下で、兄者はそう言って頭を撫でてくれた。兄者の大きな手はあたたかい。
隣でデスパー兄が「兄者、オウケンはもう子供ではないのですよ」と苦笑いしたが、正直なところ、嬉しかった。
「ああ、すまんすまん。だがオレにとっては、お前たちはいつまでも可愛い弟たちなんだよ」
兄者は満ち足りたような、穏やかな微笑みを浮かべた。
デスパー兄と揃って足を止めて、顔を見合わせた。それから悪戯を覚えたての子供のように笑って、兄者を左右から挟むようにして抱き着いた。
「なんだ、どうした、お前たち」
「可愛い弟たちからの抱擁ですよ」
「僕たちにとっても、兄者はいつまでも僕たちの兄者なのです」
一拍置いて、兄弟そろって笑い出す。
きっと、希望の輪郭は、僕たち三人の形をしている。三人で支え合って、平和で、豊かな、安穏とした、民が笑顔で過ごせる国にしていかねばならない。
冥府の美しい夜明けが明日もくる。煌めきに満ちた累日を重ねていく。