眠りの底にあった意識がふわりと浮上した。
瞼を持ち上げると、薄闇に溶けた視界に見慣れた寝所の天井があった。
長い鼻息を吐いて頭を傾けて隣を見ると、オウケンが背中を向けて寝息を立てていた。規則的に小さく上下する肩を見据え、やおら身じろぎして身体をオウケンの方へ向けてもう一度眠ろうと目を閉じるが、眠るには意識が覚醒しすぎていた。
身体を起こし、履物を引っ掛けてベッドを出る。一晩中灯している燭台の燈で、室内はぼんやりと明るい。
ふと思い立って窓辺に寄ってカーテンを開ける。
外は杳杳とした夜のとばりが降り、濃霧が立ち込めていた。寝所は城の最も高い場所にあるが、下を見ても高さはわからなかった。
見慣れた冥府の夜だが、昧爽のころになると霧が徐々に薄れ、地上からわずかに差す屈折した朝日が夜の膜を破る。ひねもす、夜すがら、冥府には燈がなくてはならないが、夜明けだけは最も明るい。
「兄者?」
仄暗い静寂は、オウケンの声で弾けた。
首を巡らせてベッドへ視線をやると、オウケンが起き上がって、こちらを見ていた。
「起こしてしまったか」
「……外を見ているのですか?」
弟は素足でベッドを出て、そばによってきた。
「まだ外は真っ暗ですね」
「じき夜明けがくる」
オウケンは隣に立つと、窓を開けた。ぬるい風が吹き入って、燭台の蝋燭に灯った火を揺らしていった。
暖炉の前に並べた椅子に腰を下ろして弟と談笑するうちに、窓の向こうは少しずつ白んできた。
「兄者、夜明けです」
弟の嬉々とした声に、椅子から立ち上がり、再び窓辺に寄る。
霧が薄まっていた。茫洋とした夜の色は、今や赤々とした朝日と混ざり合い、透き通った紫色の紗幕を下ろしていた。
「きれいですね」
「……そうだな」
ふたりで身を寄せ合って、小さな窓枠の向こう側を見据える。黎明は幽玄とした輝きを放っている。
隣に立つオウケンに、所在なく垂れ下がっていた手を握られた。
弟の横顔を一瞥して、また窓の向こうを見やる。
慎ましい愛情表現に応えるために、なにも言わずに手を握り返した。弟の手はあたたかい。体温が沁みていく。
冥府の夜明けは眩しく、希望に満ち、美しかった。