デイビットの出身地であるネバダ州について話をしている時のことだった。
眠らない街ラスベガスにある有名なカジノの話題に移ったところで会話が途切れ、柔らかな沈黙がふたりの間に降りてきて、互いに瞬きだけして見詰め合った。
デイビットの睫毛は長いなと思った時、指が伸びてきて、頬に触れた。輪郭をなぞるような触れ方だった。彼はいつもこうやって、慈しむような触れ方をする。それがたまらなく愛おしい。
デイビットの掌に頬を押し付けると笑みが漏れた。わたしは彼の温かい手が好きだ。
先にデイビットが動いた。距離が一気に縮んで、濃い影が被さってきた。
キスをされると思って反射的に目を瞑り、背の高い彼に合わせようと、頭をほんの少し持ち上げて唇を引き結ぶ。キスは何度かしてきたけれど、未だにドキドキする。胸の奥で鼓動が速くなるが、心の準備はできている。
一拍置いてもなにも起きなかった。不思議に思っておそるおそる目を開けると、金色の長い睫毛に囲われた紫色の双眸が鼻先で瞬いていた。
「デイ――」
名前を呼ぶ前に唇を塞がれた。目を伏せると、腰から抱き寄せられた。
「……ん」
下唇を吸われた。角度を変えて唇同士が合わさり、リップ音が弾む。触れるだけのキスの途中で、唇の隙間から控えめに舌が差し込まれた。それを受け止めてつつき合い、絡ませる。デイビットは吐息すら呑み込んで追い立ててくる。
「は、ぁ」
酸素を求めて離れると、舌先を繋いでいた唾液の糸が途切れた。頭がくらくらする。
体温が恋しくなって、デイビットの胸に飛び込んで抱き着いた。背中に手が回り、身体の境界線が曖昧になる。
「なんの話をしてたか、忘れちゃったね」
額を突き合わせてくすくす笑う。
「また、すればいい」
デイビットは吐息で笑った。
わたしたちは毎日、触れて、キスをする。わたしたちの絆は、ネバダ州の太陽よりも眩しくて、キラキラとしている。