狂熱を飲み込む

 被さったヒューズは、左右から寄せた剥き出しの胸部に夢中のようだった。

 乳首を強く吸い上げて、離れたかと思えばまたしゃぶりつき、舌でねぶられ、口腔で軽く歯を立てられる。芯を持った胸の先を軸にして舌で捏ねくり回されると、じんじんと鈍く疼いた。反対側も同じように扱われ、ヒューズの唇が離れると、乳首はふてぶてしくも赤く尖って物欲しそうに主張していた。

「いつまでも赤子のように吸うな」

「こんなデカい乳を放っておくワケにはいかねぇだろ」

 唾液でぬらぬらと濡れた尖端を爪の先で弾かれ、びくりと身体が引き攣る。

「お? 感じたか?」

「……うるさい」 

 事実、胸部も性感帯の一部になっていた。彼のねちっこい愛撫のあと、胸部は敏感になって、翌日もインナーの生地が胸の先に擦れただけで刺激されて、反射的に背中が丸まるとは言えない。

「俺のナニを挟めそうだよな、ここ。試してみるか」

「そんなことができるはずないだろう」

「やってみねぇとわかんねぇよ」

 ヒューズは起き上がると、膝立ちで胸部に跨った。ほめく性器が顔の前に突き出される。

「さて、試してみようぜ」

 胸の真ん中に垂らされた潤滑剤(ローション)の冷たさに唸った。胸毛が濡れ、ぎゅむっと音がしそうなほど左右から胸を押し上げられ、圧迫されて行き場を失った脂肪が女の乳房のように盛り上がった。硬く熱いものが隙間から谷間に潜り込む。

「ん」

「……たまんねぇな」

 ぬちぬちと肉と肉が擦れる粘着質な音が耳朶を打つ。ヒューズは器用に腰を前後させながら、摩擦を楽しんでいる。動きに合わせてマットレスが弾んだ。 

「……ッ」

 顔を傾け、目を伏せて、歯を食いしばって込み上げる羞恥心と戦うが、負けてしまいそうだった。たゆむ胸の肉を一瞥すると、喉元まで迫る男根も視界の端に映った。体内を蹂躙する動きと同じだからか、下腹部が熱く火照った。

 泳がせた視線が、ややあってヒューズの褐色の眸とぶつかった。唯一無二の親しみと、燃え盛る興奮を秘めた眸から目が離せない。

「悪い、イきそうだ」 

 どれくらい経ったか、息を僅かに乱したヒューズが口の端を持ち上げた。 

 意識を胸部に戻すのとほぼ同時に、口元から頬にかけて、生あたたかいものが降り注いだ。

「……! 貴様……」

 腰を浮かせていたヒューズの重さを腹に受ける。

「全部飲んでくれよ」

 熱い掌に顎を掴まれた。頬から唇にかけて弧を描いた指が精液を拭う。

「ふざ」唇の隙間から口腔に精液が垂れ込んでくる。「ける、な」

 唇を塞ぐ指のせいで、厭でも精液を舐めることになった。

「……ん、ぅ」 

 青臭く苦い精液の味に顔をしかめる。フェラチオの最後に味わうものと同じ、すっかり慣れたヒューズの味だった。悪い熱に浮かされたように頭がくらくらする。子種は唾液と絡まって、舌の上を流動している。

「お前今そそる顔してるぞ。またおっ勃ちそうだ」

「だま、れ」

 ちゅぷ、くちゅ、と淫猥な音を立てて、指と唇の間で白濁が糸を引く。ヒューズは手を離してくれない。指はどんどん精液を唇へ運んでくる。口腔に溜まったものを飲み込むしかなかった。

「ぅ……ん」

 喉を鳴らし、舌を這わせて、指の股まで舐める。結局、顔にかかったものをほとんど飲ませられた。

「……これで満足か?」

「ああ、大満足だ♡」 

 狂熱の名残を飲み込んでようやく、ヒューズの手が離れた。

 胸の先が切なくじくじくと疼いている。彼との交わりで快楽を覚えた肉体は、慎ましさを忘れていくようだった。