今夜は星がよく見えるらしい。流星群も見えるのだとか。ピークは二十一時。たまには夜空を見上げてみるのもいいかもしれないと、胸を躍らせ夜を待った。
私室を出て、長い廊下を鷹揚と歩いていると、うしろから名前を呼ばれた。足を止め振り返ると、そこには雷帝が立っていた。威厳に満ちた姿には慣れた。
「勤めは終わったのか?」
うん、と返して、ちょうどこれからね、と切り出す。流星群の話をすると、彼は顎を摩り「風情があるではないか」と喜んだ。
「よかったら一緒に見に行きませんか?」
そう提案すると、彼はすぐにうなずいた。
「せっかくだから他のサーヴァントも誘ってみようかな」
ぽつりとなにげなく呟くと、一瞬彼が唸った。「?」と首を傾けると、彼は「余は」と重々しそうに吐き出した。「余は、汝とふたりでの星見を所望する」
数瞬置いて静かな声で紡がれたのは、細やかな願望だった。
雷帝と視線がぶつかった――気がした。顔が熱くなるのを感じた。「そっか」と返すも、声は小さなものだった。
「ごめんなさい、そこまで気が回らなかったの」
「よい。余がエスコートしてやろう」
「……よろしくお願いします」
なんだか淑女になって気分だ。手を差し出すと、大きな掌に手を包まれた。彼の手は温かかった。
シミュレーターで星がよく見える場所に向かった。満月だった。月明かりが眩しい。冬の空は透き通っていて、遠くの星までよく見えた。
「わあ、綺麗」
隣で夜空を仰ぎ見る立香から感嘆の声が漏れた。冬の星座から視線を逸らして立香の横顔を見る。金色の月光に縁取られた彼女の横顔は、いつも以上に儚げな美しさを感じた。上向きの睫毛が長い。
「あ、流れ星!」
立香の声に、反射的に視軸を空に戻す。
夜の帳を、銀の筋を描きながら星の雨が降り注いでいった。流星群だ。初めてみる光景だった。なんと、美しいことか。
流れ星の群はあっという間に紺碧の夜空に溶けていった。流れ星を見たら願掛けをするといいと、幼い頃本で読んだことを思い出した時には、もう遅かった。
短く息を吐き出して隣を見ると、立香が俯きがちに目を閉じ、指を折り畳んで、祈りを捧げていた。
「流れ星に、願い事をしました」
こちらを向いた彼女は穏やかに微笑んだ。
「何を願ったのだ?」
彼女は少し悩んだように唇を尖らせた後「あなたと――いえ、やっぱり、秘密です」と肩を竦めた。
立香の願いが気になったが、深く探るのもよくないだろう。
頭上で、星がひとつ流れ落ちた。
彼女と並んで星々の瞬きを見上げ、もうしばらく、ふたりだけの星見を楽しむことにした。