パスファインダーの倉庫はいつだって物が溢れてとっ散らかっている。
クリスマスはとっくに過ぎているのに、電飾と頂上の星がいまだに光っているクリスマスツリーはもう見飽きた。片付けろと言っても「きらきらしていてきれいだ。クリスマスにしか見られないのは勿体ない」と言って片付けようとしない。
そして今夜も、彼はまたハモンド研究所裏にあるスクラップ置き場からなにか拾って帰ってきた。ただし今回は冷たい鉄屑ではなく、彼が拾ってきたのは小さな灰色の仔猫だった。
「カラスに襲われてたから助けたんだ」
パスファインダーはその辺りに落ちていたバスタオルで仔猫を包むと、人間の母親が赤子にするように抱き抱えた。「とっても小さくて可愛い」
「元の場所に返して来い」
「可哀想だよ。僕がこの子のパパになるんだ!」
パスファインダーの腕の中で、仔猫が甲高い声で鳴いた。
「汚れているからお風呂に入れてあげなくちゃ。でもうちにはお風呂はないから……そうだ、エリオットの家のお風呂を借りよう!」
パスファインダーは未熟な毛玉を抱えて勝手に倉庫を飛び出して——しばらくして帰ってきた。
「見てレヴナント、ふわふわになったよ! ミルクもたくさん飲んだんだ!」
みすぼらしかった野良猫は、洗いたてのぬいぐるみになっていた。パスファインダーの合成音声に反応するように、ぴんと立った耳が動いている。
「エリオットと相談したんだけど」パスファインダーは仔猫を撫でた。「やっぱり僕にはこの子のお世話は難しい。だから、里親が見つかるまでの間だけ面倒を見ることにしようと思う。お別れするのは寂しいけど、そっちの方がこの子にとって幸せなんだ」
パスファインダーは仔猫を抱えたまま高耐荷重ベッドに寝転んだ。
「この子を撫でてみて。柔らかくて、あたたかいよ」
横たわるパスファインダーの胸部ディスプレイの上にちょこんと座って、仔猫はじっとこちらを見上げてきた。まだ目が開いたばかりなのか、青い眸はなんとなく焦点が合っていない。
「間抜けなツラだな。お前にそっくりだ」手を伸ばして、仔猫の薄い喉の下を指先でくすぐってやる。仔猫は目を細めると、ゴロゴロと喉を鳴らしはじめた。
「わあ、ゴロゴロいってる! 君ってテクニシャンだね」
「フン」
仔猫の首のうしろを掴んで持ち上げると、四肢がだらりと垂れた。胴が長く、全体的にぐにゃりとしている。折り曲げた足の間に——意図せず腰布に乗せることになった——仔猫を転がす。
仔猫はミルクでパンパンに膨れた腹を見せると、好奇心で目を爛々と輝かせて、短い四肢で手にじゃれついてきた。
「よーしよし……」
小指の先を吸われる。懐っこい。生き生きとした仔猫は恐れというものを知らない。
「んー……なんだか……君ってママみたい」
「なんだと?」
「うん、僕がパパで、レヴナントがママ。そうしよう。短い間だけどよろしくね」
パスファインダーは興奮気味の仔猫の狭い額を角張った指先で撫でると、胸部ディスプレイをピンク色に光らせた。