その晩は蒸し暑く、宿に戻ってすぐに半裸になってベッドに転がった。シーツの冷たさが心地好かったが、体温が移ってすぐに温くなった。
並んだベッドの間にある小窓を開けると、微かに生温い夜風が流れ込んでくるも、開ける前と大して変わりない。
冷えたエールを恋しく思いながら肘枕をして寝そべっていると、ラカムが風呂から上がってきた。珍しく下着姿だった。
「暑ぃ。今夜は熱帯夜か」
諦めたように言って向かいのベッドに腰掛け、煙草に火を付けたラカムの贅肉のない整った体躯が魅力的に見え、急に劣情をもよおし、亢進した。湧き上がった肉欲は、火照った身体のせいなのか、はたまた、頭が暑さでぼんやりするからなのかわからない。いや、どうでもいい。
「なぁ、ラカム」
「ん?」
紫煙を唇の隙間から天井に噴き出し、ラカムは視線をこちらに寄越した。
「ヤらねぇか?」
ストレートに誘いの言葉を投げる。ラカムの目が瞬いて、数瞬置いて目尻が細まる。
ナイトテーブルに置かれた灰皿に煙草の火口が押し付けられた。
ベッドの真横に衣服を落とし、抱き合った。触れるだけのキスをすると、淫靡な空気が身体に絡んだ。横たわり、剥き出しになった無防備な身体を重ねる。体温と鼓動が混ざり合うようだった。
ラカムの唇が首筋に滑り、頭の位置が下がった。舌が汗ばんだ肌を伝って胸筋の真ん中で止まった。被さっていた影が傾く。
「ん」
乳首を吸われて身震いした。ラカムの口腔が熱い。唇の間で舌が生き物のように動く。突き出た乳首を上下に掻かれると、痺れに似た疼きがじんわりと広がった。
「おいラカム、そんなとこ、感じるわけねぇだろ。止せって」
制止の声は届いていなかった。それどころか、まるで赤子が母乳を求めるように強く吸われ、微かに息が上がった。硬くなった芯を舌でなぶられる。信じたくないが、気持ちがいい。顔を逸らして唇を噛み締め、声が出ないように耐える。
「そんな吸ってもよぉ、なにも出ねぇって……!」
薄い皮膚の下で渦巻いていた熱が下腹部まで落ちる。
「ん、ぁ」
「感じてるじゃねぇか」
囁いて、様子を窺うようにこちらを見やったラカムの双眸は鋭かった。まるで獲物を狙う狼だ。背中がぞくぞくした。これから喰われるのだ、この男に。
反対側を指で摘ままれ、絶妙な力加減で押し潰され、転がされる。
「~~~~~ッ!」
火照る胸の先っぽに視線をやる。指の腹の間で、勃った乳首が軟体動物のようにくにくにと動いていた。
ちゅぱっと水っぽい音がして、ラカムの唇が離れる。散々ねぶられたそれはつんと尖って、唾液でぬらぬらと濡れて、ぷっくりと膨れてしまっている。胸がじんじんする。
やっと解放されたと安堵した時、今度は指で挟まれていた方をしゃぶられた。軽く歯を立てられ、身体が強張った。硬くなった芯を軸にして、舌が何周もする。限界だった。
「あ、ぐ、ラカム、イっちまう……!」
いつの間にか中途半端に勃起していた自身から熱が迸った。身体が引き攣り、空中に放り出されたような感覚のあと、情けない声が口から漏れた。爪先が張る。
はくはくと口を動かし、不規則な呼吸を繰り返す。涙の膜が張って、目の前が水っぽく歪んでいた。
舌なめずりをしたラカムが身体を起こす。両膝を突いた足の間では、本能が屹立していた。
「へ、へへ……ジジイの乳首吸ってこんな硬くさせてよ」
足裏で先端を踏みつける。先走りが土踏まずを濡らした。爪先で器用に亀頭を包み込むと、ラカムが眉を寄せた。
新たな興奮がじわじわと身体を支配していく。
体液でぬめった指の付け根で、血脈を浮かせた幹を摩る。指を広げて弾力のある先端を撫で回せば、ラカムは大きく息を継いだ。
両足を折り曲げ、左右からラカムの昂りを挟み込んで上下にしごいてやる。潤滑はよかった。ラカムから見れば死んだカエルのようなみっともない姿だろうが、構わない。
摩擦の回数が増すと、ラカムの息も上がった。土踏まずの間で、ペニスが脈打って、さらに硬く大きくなっていく。
「ほら、イっちまえよ」
あおるように言って、根本の肉袋を指の付け根で揉み込む。
「オイゲン」
海のように深みのある声が耳朶に届いて、膝裏を掴み取られた。
「は……あ? おい、ラカ――」
そのまま両足を勢いよく広げられた。覆い被さってきたラカムの体重を受け、背中が深くマットレスに沈んだ。尻の孔に硬いものがあてがわれた時には言葉の続きは鋭い息になり、次の瞬間には圧倒的な質量が腹に捩じ込まれた。圧迫感に目を見開く。
「ぉ……ぐぅう……!」
一気に根本まで突き入れられ、身体が痙攣する。シーツを掴み取って刹那的な疼痛に耐える。腹の底が灼けるようだ。
「ひ、ぐ、ラカム」
抽迭はすぐに始まった。ぎしぎしと軋むベッドからラカムの理性が転がり落ちて砕けた。
膝裏を掴み取っていた手は腰に移動した。肉と肉が激しくぶつかり、ばちゅばちゅと粘り気のある音が弾む。
「あ、ああ、ラカムッ、ん、あ、そんな、激しくされたらッ……ひッ、あ、おかしくなっちまう……!」
「イっちまえって言ったのは、オイゲン、アンタだぜ」
「だけど、よッ、こんな、あ、あ、あぁ……!」
萎えたペニスが腹の上で弾む。開いた口からは濁った嬌声が絶え間なく漏れ出て、部屋に反響する。
「お、あ、あぁ……!」
狭い肉壁の間をごつごつと突かれて、意識が飛びそうになる。のしかかってきたラカムの背中に手を回して必死にしがみ付いて、意識を手放さまいとする。体内の奥深くを暴かれ、排泄感に似た脱力感に身体に力が入らなくなる。
「ん、あ、ま、待て、ま――」
潜熱が沸騰した。二度目の絶頂は声にならない声が出た。脊髄を行き来していた快楽が脳髄を麻痺させ、頭の中が真っ白になる。声も出せないまま仰け反っていると、ラカムの腰がのの字を描くような動きに変じた。肉棒が敏感な部分を擦り上げ、息を継ぐ間もないまま夢心地の余韻に打ち震えた。
精液のにおいが鼻を突く。
腰の動きを止めたラカムが、拓かれた腹の奥で熱情を吐き出す。法悦の名残が体内で流動する感覚に眩暈がした。
臓腑の間に留まっていた疼きは、ぱっくりと拓いた孔から白濁と一緒に溢れ出て、シーツを汚した。