心地よいまどろみから意識が引き上げられた。
目を開けて最初に見たのは、ずっと高くで茂った木々の、葉の隙間から差し込む日差しの白さだった。まぶしさに顔をしかめ、手で日差しを遮ろうとするが、身体が動かなかった。指先ひとつ動かせない。息だけが漏れた。葉のさざめきに不安を覚える。
柔らかい風が吹いて、誰かが横からこちらを覗き込んだ。逆光に翳る輪郭は、女のものだった。丸みを帯びた肩にかかる髪の色は明るい。
「目が覚めたのね」
女の指が頬に触れる。微笑んでいるのは、フェイス・シードだった。
「夢を見ていたんでしょう。ずっと魘されていたわ」
何故自分が眠っていたのか、何故彼女がここにいるのか、わからなかった。直前の記憶を辿ろうとしたが、頭の中は濃霧に覆われたようにぼんやりとして、なにも思い出せない。
「ねぇ、どんな夢を見ていたの?」
彼女の薄桃色の唇が緩やかな弧を描く。光の加減のせいか、フェイスは老女のようにも見えたし、少女のようにも見えた。
「私たちを殺す夢? それともあなたが死ぬ夢?」
頬にあった手が剥き出しの首に移動する。彼女はおもむろに俺の腹に跨った。被さった影が濃くなる。
フェイスは魅力的な微笑みを浮かべたまま「あなたが死ぬ夢だといい」と続けた。
重心が傾いて、体重のかかった手が頸部を圧迫し、指が徐々に食い込んでいく。狭まった気道が軋む。酸素を絶たれて、こめかみの辺りが鼓動に合わせてじくじくと疼いた。目の奥が熱くなって、指先が痺れてきて、頭の中で死が膨らんでいく。
「痛い? 苦しい? でも大丈夫。これも夢だから」
フェイスはそう言って、美しく笑った。