ジェイコブと男保安官

 ジェイコブ・シードは、人を殺すことを厭わない目をしていた。
 だから、殴り合いの末に背中から地べたに叩きつけられ、首の付け根に鋭利なサバイバルナイフの刃を押し当てられている今、いよいよ死を覚悟した。
「殺すなら殺せ」
 頬の内側が切れて血が溢れ、不快な味が口腔に広がる。血反吐を彼の顔にひっかけてやりたかったが、喋ったせいで喉の奥に血が流れ込んでしまって噎せた。
「殺してやりたいが、弟はそれを望まない」
 ナイフの刃を引っ込めて、彼は静かに言った。青い冷酷な眸に確かな理性が居座っているのが気に入らない。
 痛めつけられた身体はもういうことを利かなくなっていた。彼に殴りかかることもできずに、みっともなく四肢を投げ出して、痛みに顔をしかめることしかできない。
「今はお前を殺さない。だが忘れるな」
 開いてしまった太ももの矢傷に親指がねじ込まれた。
「…………ッ!」
激痛のあまり身体が硬直し、息が詰まった。
「お前が死んだら狼に食わせてやる。お前も、お前の仲間もだ」
 垂れた鼻血を親指の腹でぬぐった彼の眸には、理性の光をも塗りつぶす、色濃く険しい怒りが渦巻いていた。