腹の真ん中に一発拳を食らって、目の前の景色が歪んだ。瞬く間に胃からせり上がってきた苦い液体を、たまらず床にぶちまける。衝撃の余韻に息を詰め、背骨をこれ以上ないくらい丸めて、前のめりになってよろめいて、その場に膝から崩れ落ちた。
嘔吐き、噎せながら、鋭く痛む腹を押さえる。生理的に湧いた涙が頬を流れ落ちていった。
顔を上げ、鼻をすすり、泳がせた視線をなんとか目の前に立つ男に向けるものの、恐怖に圧され、赤毛の濃い顎髭より上を見上げることができなかった。
「お前は犬以下だな」
無情に浴びせられる言葉が、空っぽの頭に反響する。
犬以下。そうだ、オレは弱いから……。
「立て」
言われた通り、ふらつきながらも立ち上がると、また腹に拳を叩き込まれた。
吐瀉物が足元に広がる。
勢いあまって足がもつれて尻餅を突いた。恐怖で竦んだ身体が震え出す。目の前に立ちはだかる男は、くつくつと喉の奥で笑った。
「立て」
氷のように冷たい声が耳朶に届く。
ああ、誰か、この地獄からオレを救ってくれ。