アレキサンダー×褪せ人♀

 夜もすっかり更け、慟哭砂丘を彷徨う大英雄の葬送に参加した戦士たちを労う酒宴は、お開きが近いのか、べろべろに酔って至る所で寝入った男たちのいびきが目立つようになっていた。
 赤獅子城の広間の真ん中に一晩中灯っていた篝火は、いつの間にか途絶えた男たちの哄笑や陽気な歌と違って燃え盛っているが、火を眺めているのは、今はもう俺くらいだろう。
 隣で浴びるようにエールを飲んでいた褪せ人も、いつの間か口数が少なくなっていた……いや、静かすぎる。
 ちらりと隣を見ると、褪せ人の瞼が下りていた。小さな頭がこくりこくりと上下に揺れている。
 幽鬼と成り果てたラダーン将軍を相手に死闘を繰り広げていた勇敢なる戦士が、途端に幼い子供のように見えて、微笑ましくなってふっと笑う。
「貴公、眠いのだろう?」
「ん……うん……」一拍置いて瞼が持ち上がり、掠れた声で返事が返ってきた。「今、寝てた」褪せ人は鼻から大きく息を吐いて、眠たげな目を瞬かせた。
「俺に寄り掛かって眠るといい」
 篝火の中で焚べられた薪が弾けて、地べたに伸びた並んだ影が傾く。
「えっ、でも……」
「遠慮はいらない。おいで」
 褪せ人は「ありがとう」と俺を見上げてはにかむと、のろのろと身じろぎして背中を預けてきた。身体の側面に心地いい重みが寄り掛かる。
「おやすみ、アレキサンダー」
「おやすみ、友よ」
 地面に投げ出した手に、褪せ人の肉の薄い手が被さった。色の白い手の甲を親指の腹で撫でる。彼女の手は柔らかい。
 紺碧の空で明滅する星々は薄れていき、褪せ人の穏やかな寝息が火に照らされた。