或る夜に

※2024年6月30日開催のイベントで配布したものです
 


「夜は長いんだ。そう緊張するなよ」
 テスカトリポカは冷灰と吸い殻の積もった灰皿の中で煙草の火を揉み消し、ソファの背凭れに両腕を載せて、隣に座る立香に穏やかな笑みを向けた。
「だって、えっちするの、はじめて、だし」
 立香は歯切れ悪く言って顔を巡らせた。視界に色の白いしなやかな男の上半身が飛び込んできて思わず膝に置いた手に力がこもる。パンツを穿いているといえども、つい彼の完璧な體を想像してしまった。
「今」テスカトリポカは立香の肩を抱いた。「想像したか?」
 耳元で囁かれ、立香は身を強張らせた。顔が熱くなった。
「オレも」肩にあった骨ばった手が首筋に触れる。「想像しちまった」
 喉の奥で低く笑って、テスカトリポカはサングラスを外した。つるが立香の方に向けられる。立香はなにも言わずにサングラスを受け取り、灰皿の隣に置いた。
 一拍、間があった。見詰め合い、どちらが先というわけもなく、衝動的に唇が引き合って、咬みつくようなキスを交わした。息を継ぐ間もない犯すような舌使いに、立香の意識はとろけはじめる。性的興奮で粘ついた唾液が舌先に絡まる。必死にテスカトリポカの動きを追うと、下唇を吸われ、拳ひとつ分頭が離れた。
「ベッドまでお預けだ」
「やだ、ここで、抱いてください」
 立香は熱っぽく湿った息を吐き出して懇願した。
「ここで?」テスカトリポカは髪を掻き上げた。「はじめてにしては、大胆だな」
 それから彼もまた鋭く息を吐き、ベルトに手をやり、髑髏のバックルを外した。フロントをくつろげると、鼠径部が剥き出しになった。見えるのは白い肌だけだ。下着も、下生えもない。
 テスカトリポカの手によって立香の服が一枚一枚剥がされていき、やがて體を覆うものはレースの白いブラジャーとショーツだけになった。羞恥心はソファの下でシワだらけになっていた。ブラジャーのカップに指が引っ掛かり、下に引っ張られた。乳房が揺れ、薄桃色の乳首が露わになって、立香は身震いした。

 男を知らない體を、テスカトリポカは少しずつ拓いていった。熱情を滾らせる男の女のキス、小振りな胸を覆う男の手、體の輪郭をなぞる大きな掌、濡れそぼつ女の部分をねぶる舌、胎内を掻き混ぜる指……すべて立香の知らないものだった。テスカトリポカから与えられる快楽は彼女を未知なる領域へと(いざな)った。胎の中は甘く切ない疼きに満たされ、強い刺激は足先から鳩尾まで一気に痺れさせる。気持ちがよかった。息をするのを忘れるほどに。

――こんなの、知らない……!
 胎の内側でテスカトリポカの指が曲がった。途端に腹の底で煮えていた形を成さない快感が脳天までせり上がり、背中が仰け反った。背凭れに載った足の先が真っ直ぐに伸び、真珠のように透き通った爪が天井のライトを反射させた。
「あ、だめ、なんかくるっ、おかしく、なっちゃう……!」
 上向きでゆっくり前後していたテスカトリポカの手が速くなり、粘っこい水音に立香は悲鳴が混ざる。
「イけよ。そのまま、本能に喰らいつけ」
「っ、ぁ、あ、んっ……! あぁっ、~~~~~~!」
 立香の股座から弧を描いて勢いなく飛沫が散った。潮は指の動きに合わせて押し出されるようにして三度噴き出た。
 処女の體は硬直して弓形に反り、弛緩して、びくびくと痙攣した。はじめて迎えた絶頂に、立香は息も絶え絶えだった。瞬きをするだけで精一杯だった。胎の深い場所がひどく熱い。女としての本能が、テスカトリポカを求めていた。
「テス、カ、あぅ……」
 生理的な涙が立香の視界を水っぽく歪ませている。
「もっと、して」
 唇から漏れたのは、淫らな切望だった。
「あなたがほしいの。わたしを、満たしてください」
「いいだろう。オマエの胎を、オレが満たしてやる」
 男の象徴が勢いよく零れる。血管を浮かせてそそり勃つ陽根の裏側が、立香のしとどに濡れた媚肉の間をなぞるように押し当てられた。ぬかるみを擦り上げられ、すっかり硬くなったクリトリスを亀頭で詰られ、立香は甘い声を漏らした。張りつめた先端がじわじわと胎の中に食い込んでいく。立香が深く息を吐いた一刹那、テスカトリポカは腰を突き出し、処女膜を破った。
 「あっ」立香は反射的に手首を反らし、クッションの端を掴んだ。内臓を押し上げられるような感覚に息が詰まる。

テスカトリポカの腰が動き、規則的な抜き差しがはじまって、嵌合(かんごう)部分から淫らな音が弾む。ソファのシートが波打った。大好き(テスカト)()(ポカ)に処女を捧げたことへの幸福感で立香の胸はいっぱいになったが、余裕がなかった。うまく呼吸ができない。

「あっ、うぅ、あ……は……ああぁ……!」
「立香」深く繋がったまま、テスカトリポカは腰を止め、背骨を丸めて立香に覆い被さった。「オレを見ろ」
 やや乱れた、垂れ下がった金色の髪の間から、情熱を秘めた青い眸が立香を射抜く。親しみのこもった眼差しを受け、自然と呼吸が落ち着いてきた。熱を帯びた掌が頬に触れると、安心感が立香を包み込んだ。
「きもち、いい……」
「夜は長いんだ。オレとオマエで、快楽を味わおう」
部屋を満たす官能が噎せ返るような芳香を放つ。
 拓いた胎の最奥を、テスカトリポカは押し潰した。緩やかに降りてきていた子宮口を突かれ、処女だった立香の胎に淫蕩の火が灯る。
 偉大な夜が、少女の肉体を喰らい尽くしていく。