ソファに身体を横たえて眠っていたことに気付くのに時間が掛かったのは、寝起きで頭の中に霧が立ち込めたように思考が鈍っていたからだ。背中で軋むスプリングの音ですら煩わしい。
背もたれをつかんで上体を起こす。気配を感じて視線を横に滑らせれば、テーブルの向こうで、プラットがパイプ椅子に腰掛けて肩を強張らせていた。寝る前に、この怯えきった捕虜にさっさと失せるよう命令するのを忘れていた。
夜通しここにいたらしいプラットは咳払いをして「あの」と口を開いた。
「悪い夢を見てたんですか?」
プラットは哀しげに目を瞬かせながら言った。
「何故そんなことを訊く」
「いえ……ずっと……苦しそうに……魘されてたから……」
夢を見ていた自覚はなかった。眠りが深かったのか、浅かったのかさえもわからない。夜更けにソファに横になって目を閉じてすぐに眠りに落ち、再び目を開けたら朝だった。それだけだ。
プラットから視軸をずらし、俯いて、浅く鼻息をつく。
「夢など見ていない」
「えっ? でも寝言で……ああ、いや、なんでもないです」
プラットの弱々しい声を聞き流して瞼を閉じると、眼球の裏側にこびり付いた忌々しい過去が次々とフラッシュバックした。
幼い頃から父親に虐げられて痣が絶えなかった毎日のこと。
少年院で問題を起こすたびに看守に殴られて独房に閉じ込められた日々のこと。
戦場で隊からはぐれて水が尽き、挙句に弱り果てた親友を手にかけた時のこと。
除隊されて戻る家もなく路頭に迷い、煩雑とした町の片隅で抜け殻同然の生活を送っていたこと。
腹の底から途方もない怒りが湧いてきて、瞼を持ち上げる。無意識に拳を握り締めていた。陰惨とした過去は決して記憶から剥がれ落ちない。目を閉じれば生々しく浮かぶ。
「悪夢なら散々見てきた」
喉元までせり上がった怒りを静かに吐き出して立ち上がる。
プラットはこちらの顔色を伺い、口をはくはくと動かして言葉を選ぼうとしていたが、結局何も言わずに唇を引き結んだ。
この弱い男は、果たしてなにを聞いたのだろう。