ジョセフ・シードはただそれを見下ろしていた。
足元に転がっているのは酷く弱った蒼い小鳥だ。小鳥の丸い眸からは、命の光が消えつつあった。小鳥の身体に群がった蟻たちが、残り少ない命を少しずつ削るように、組織を咬みちぎって運び、巣まで列を成している。瑠璃色の美しい羽根を折り畳んだまま浅く呼吸を繰り返す小鳥は、もうすぐ死ぬ。小鳥もそれを悟っているだろう。中途半端に開いたままの嘴の上を、死の臭いをいち早く嗅ぎ取った蠅が闊歩している。
「なにをしてるんだ」
背後から声がした。ゆっくりと首を巡らせると、「子」がいぶかし気な表情で歩み寄ってきた。
「哀れな小鳥を見ていた」
「小鳥? どこにいるんだ?」
「ここだ」
人差し指を靴の先で転がっている小鳥に向ける。
彼はますます顔をしかめ「お前がやったのか」と言わんばかりの目をジョセフに向けた。
「空から墜ちて、土に還る。美しい死に方だと思わないか」
「なにを言ってるんだ。まだ生きてるじゃないか」
「いずれ息絶える。これは自然の摂理だ」
「助けてやらないと」
彼は腕捲りをしてしゃがみこんだ。
死にかけの小鳥に伸ばされた手より一瞬早く一歩踏み出した。
彼が息を飲むのと、薄い頭蓋骨と肉の塊がひしゃげる水っぽい音が靴底で弾けるのは、ほぼ同時だった。
「……なんてことをするんだ」
泣くのを堪えるような表情でこちらを見上げる彼を、ジョセフは小鳥を見下ろす時と同じく、ただ無感情に見た。