古ぼけた矜持

 心臓や心よりもずっと深い場所に宿るものがある。
 それは魂だ。魂とは、生きとし生ける者すべてが持っている。生き生きとした崇高な輝きを放つものもあれば、古ぼけた矜持のように色褪せたものもある。歪なものや、繊細なものだってある。
 テスカトリポカが好む戦士の魂は、皆傷だらけだった。戦場に立つ時、彼らの魂は赤々と燃え、最期の瞬間に最も大きく盛り、瞬く。
 テスカトリポカは、死地の中で燃え尽きた数多の魂を自身の領域に招いてきた。そうやって、敗れた者たちに安息を与えてきた。
 戦う者の魂というのは傷が多い。たとえそれがか弱き者の魂でも……
 テスカトリポカのマスターであり、未熟な戦士である立香の魂もまた傷に覆われている。そして、彼女の魂は縫い目だらけだ。実に美しい魂だとテスカトリポカは思う。過酷な試練を乗り越えてきた魂は今もなおすり減っている。彼女は己に課された責務を果たそうと、これからも真っ直ぐに前を見据えて戦い続ける。確固たる決意と意志は、祝福するに値するものだ。
 身体や心の傷はやがて癒える。だが、肉体に宿るずたずたの魂を慰めてやることはできない。できるとするならば、それは死んだあとだ。ミクトランパでならなんだってできる。その時がくるかはわからないが。
――コイツがくたばるよりも、そっぽを向かれるのが先かもな。
 煙草の先に火を灯し、胸に湧いた愛着を閉じ込めた煙を天井に向けて吐き出して、テスカトリポカは立香の横顔を見詰める。
 視線に気付いたらしい、立香が顔を巡らせた。ぱっちりとした目が「なんですか?」といわんばかりに瞬く。
 ふっと笑って、テスカトリポカは煙草を咥えたまま彼女の頭を撫でた。
「テスカトリポカ?」
「甘えたい時は甘えろよ。オレが誰よりも甘やかしてやる」
「あ、ありがとう……?」立香はますますわけがわからないとでもいうように目を丸くさせた。「甘えてもいいんだ?」
彼女はテスカトリポカを上目にじっと見詰め、「ひとつお願いがあるんですけど」口火を切った。
「ああ。なにがほしい? 砂糖菓子か?」
「もっと頭を撫でてほしいな……なんて……」
 照れくさそうにはにかむ立香の可愛らしいおねだりに、テスカトリポカは応じた。
 そっぽを向かれることはなさそうだった。