作家ではあるが、元々身体は丈夫な方で体力にも自信があった。が、シェリルから風邪をもらい、熱を出して寝込んでいる今、不覚にも衰えを感じてしまった。
高熱でぼんやりした頭で、サイドテーブルに置いた目覚まし時計を見やる。角ばったデジタル表示の数字は、19時過ぎを示していた。深い眠りと覚醒を繰り返し、気が付けば、夜になっていたようだ。
鼻をすすって寝返りを打つと、ドアが開く音がした。視線を滑らせると、スープ皿の載ったトレイを手にしたジェイムスが立っていた。
「ハリー、調子はどうだ?」
最悪だと短く返すも、鼻声だった。
「何か食べられたらと思って、チキンスープを作ったんだ」
「悪いな」片手を突いてゆっくり起き上がる。「食べられそうか?」
サイドテーブルにトレイが置かれた。スープ皿から、湯気が立っている。
「ああ。ちょうど腹も減っていた」
ベッドの縁に腰掛け、トレイのスプーンに手を伸ばす。香ばしい香りが空っぽの胃を刺激した。
スープ皿の取っ手に指を引っ掛けて持ち上げ、引き寄せた。濃い黄金色のスープの中に、細かく刻まれた野菜と、一口サイズの鶏肉が沈んでいる。一口すすると、懐かしいような、柔らかい味が口いっぱいに広がった。
「うまい」
「シェリルもおかわりしてくれたんだ」
ホッとしたのか、ジェイムスは眉間にしわを寄せて笑った。
「早くよくなるといいな」
「君にうつさないようにする」
スープを飲み終わるまで、ジェイムスはそばにいてくれた。
「うまかった。ごちそうさま」満足気に鼻息をついた。
「ゆっくり休んでくれ」
「そうさせてもらうよ」
再び横になる。今夜は、よく眠れそうだ。
「おやすみ、ハリー」
ジェイムスの穏やかな声が、耳に心地よく馴染んだ。