レモンパイのように甘酸っぱい

 料理長から預かった焼きたてのレモンパイを手土産にデスパー様のお宅へ伺った。
 こうしてデスパー様の元をおとなうのは一月ぶりだ。デスパー様が城から去って城市に越されてからまだ日は浅いが、城内でお姿をお見掛けしないことにはまだ慣れないでいる。日々執務室で補佐をしていたのが懐かしくなる。
 なにより、蜜月の仲だというのに、睦合えないのが正直寂しい。故に、王の御命令とはいえ、デスパー様のご様子を伺うために、こうして足を運べることを嬉しく思っている。
 デスパー様は手土産のレモンパイをいたく喜ばれた。城にいたころ、ティータイムによく召し上がっていたのを思い出した。 
「早速いただきましょう」と、デスパー様は紅茶を淹れてくださった。
 白いティーカップから、魅惑的な湯気が立ち上っているのを見て、兜の縁に親指を引っ掛けて持ち上げ、ミルクのたっぷり入った紅茶を一口啜る。胸を焦がす情熱と同じく、熱かった。
 レモンパイと紅茶に舌鼓を打ちながら互いの近況を話すうちに、不意に、ケーキよりも甘く、紅茶よりも芳醇な香りを放つ官能がふたりの間に現れた。
「寝室に、行きませんか」
 声を潜めたデスパー様からの誘いに、ドキッとして身じろぎする。「ま、まだ紅茶が残っていますが、よろしいのですか?」
「冷めても構いません。今はただ、あなたと睦合いたいのです」
 どちらがどうとうわけもなく椅子から立ち上がり、会えなかった寂しさを埋めるように身体を密着させて抱き合った。
「会いたかったですよ」背中にしっかりと手が回る。デスパー様の熱を含んだ声は、親愛に満ちていた。
「……私もです」
 腕の中の愛おしい存在は、潤んだ目で私を見上げた。
 熟れた官能が安息と混ざり合って、重たい幕を下ろしていく。