見渡す限りの白銀世界に吹雪く風は、鋭く肌を刺した。
もう少し露出を控えるべきだったかと思ったが、これから狩るドスバギィの素早さを思えば、身軽な方が良い。ホットドリンクも沢山あるし、短期戦で狩ればいいのだ。
ポポ達の間を縫うよう駆けて、警戒し乍洞窟内へ入ると、吹きすさぶ風の音だけが耳を打った。
太刀の柄を握る指は、寒さで僅かに感覚がなくなってきた。
はっ、と大きく息を吐き出した時、空気を震わせるけたたましい咆哮が反響し、緊張感をみなぎらせた。たぎった全身の血が、ごうごうと音を立てるように身体を巡る。
岩影からのそのそと姿を現したのはドスバギィで、ぎらぎらとした眸が此方を向いた時には、既に太刀を構えていた。 同じ色をした雑魚がぎゃあぎゃあ鳴いて、わらわらと洞窟内に散らばる。太刀を振り回し、飛び掛かってくる雑魚の肉を裂き骨を絶ち、血と断末魔を浴び、只管に長を目指し吠えた。
雑魚が群がってきた。
苛立ちに任せ太刀で凪いだ。
その向こうで、ドスバギィが裂けた口から鋭い牙を覗かせ、身体を震わせると、紫煙のような塊を私の顔目掛けて吐き出した。
しまった。
そう思った時には太刀の柄はするりと掌から滑り、膝から崩れ落ちた。
ああ眠り乍私は喰われるのかと、遠退く意識の中、唇を噛み締めた。
不快な音で目が覚めた。
粘着質な音――といえばいいのか。べったりと耳に絡み付くような、そんな音だった。自分の肉や内臓が引きずり出されているのかと思ったが、痛むのは頭だけだった。
ずきずきと痛む頭を擡げれば、靄が掛かったような視界に、丸っこい薄青の物体が写った。物体はちまちまと幾つか身体にへばりつき、小さく鳴いていた。
ギィギだ。
ねっとりとした体液の感触に肌が粟立つ。
ふ、と鼻腔を突いた血の臭いに視軸を辺りへ投げる。数体のバギィの死骸と、先程のドスバギィが、身体を真っ二つにされ死んでいた。
恐怖が身体を駆け巡る。
一体何故。
誰が。
何を。
「ぎい、ぎい」
一匹のギィギが、ヒビの生じた鎧の継ぎ目を壊しよじ登ってきて、腹から胸へと移動した。
声は出なかった。
僅かな隙間に潜り込んだギィギの分厚さに耐えきれなかったのだろう、大切な防具は内部からみちみちと軋んで、留め具が飛んだ。
汗の染みた肌着が露になり、鳥肌が生じた。
「あ」
ギィギは身体を伸縮させ乍、乳房まで這ってきた。ぬるぬるとした体液とざらざらした皮膚に、首が反る。
ホットドリンクの効果はまだ切れていないらしく、火照った身体に、ギィギの冷たく柔らかい身体が心地よかった。
腹や胸の上を行ったり来たりするだけで、ギィギは噛みついてこなかったが、肌着の下で、頂が硬くなっているのを感じ、唇を震わせる。
屈辱だった。
不意にギィギが甲高い鳴き声で喚き始めた。
気だるい身体では、耳を塞ぐことも出来なかった。
地鳴りが、した。
限られた狭い視界に、薄闇で蠢く白いモンスター——ギギネブラが入り込む。
恐怖が込み上げ脳髄を貫き、息が出来なくなる。
無造作に転がっているドスバギィを殺したのはギギネブラだということを悟り、目をすがめた。
ギギネブラは壁を這い天井を伝い、巨大を揺らし私の足元に降り立った。
擦り寄るギィギ達に向け短く鳴いて、鋭い歯の並んだ口をだらしなく開けて唾液を垂らした。
ああ、死ぬ。
間違いなく死ぬ。
目を閉じると、滲み出た涙がこめかみを流れていった。
ギギネブラが唸り乍覆い被さってくる。ぶよぶよと柔らかい皮膚が上下に動き、肌着を捲り上げる。
剥き出しになった胸元はギィギの体液でぬらぬらと光って、薄紅の頂は勃っていた。
倦怠感にくるまれた身体は動かない。
べたついた指が器用に足根を探り、留め具が外れ下着と太股が晒される。
ギギネブラは浅い呼吸を繰り返すと、翼を折り畳み太い身体を翻し、尾から白くべたついた塊を吐き出した。
顔に掛かった体液は、鼻や口にまで滑り込んできた。噎せれば、体液は反った喉を流れ、乳房をどろどろと包んで、尖った乳首を刺激した。
青臭さに顔をしかめ乍、必死に呼吸する。
ギギネブラが短い足でそのまま後退し乍、迫ってきて、尾の先から、赤黒くグロテスクな肉杭が剥き出しになった。先端からはまだ濁液が漏れている。性器に押し付けられて漸く、それが生殖器だということに愕然とした。
動かぬ身体で逃れようとするも、粘液に包まれた杭は、脱力した脚根を割り、ずぶすぶと蜜壺に沈んだ。一瞬脳髄を熱が貫く。
太く硬く滑った杭は、胎内を探り、精液を吐き続けている。腹の中を、流動している。
涙が溢れた。
抵抗もままならぬまま、モンスターに種付けされているのだ。
「いっ…」
ギギネブラの性器がゆっくり胎内から抜け、ごぼごぼと、精液は膣口から零れ出し、腹が、まるで子を宿したかように僅かに膨らんだ。
震える手が漸く動いた。
恐怖に麻痺した身体で寝返り、ギギネブラに気付かれないように祈り乍、人が入り込めるであろう岩の裂け目に逃れようとした。
白く醜い水跡を残しながら両腕で這う。
あと少しで裂け目に届きそうになった時、上半身を勢いよく引っ張られた。
ギギネブラの両指が肩に食い込み、まるで椅子に座るような体勢で、ギギネブラの腹に尻餅を突いた。
「っあ」
股の間には、肉杭があった。ギギネブラの呼吸に合わせ、びくびくと脈打っている。ギギネブラは唸り腹を波打たせ、また挿入してきた。
肉壁は難なく巨大な生殖器を受け入れ、吐き出される子種を吸った。
「…いや…ああっ…!」
モンスターの本能がそうしているのか、蛇腹でがくがくと腰を揺さぶられ、意識が飛びそうだった。
ギギネブラに抱えられ、逃れる術はなかった。只管に受精する筈のない種付けを繰り返された。
寒さも感じなくなる程に。
洞窟内に漂う生臭さと狂気は高山に降り続ける雪のように冷たく、無情だった。
―End―