「なぁ、お前さんは生娘か?」
突拍子のない問い掛けをされたのは、胡坐を掻いたガンダルヴァの足の間に座って丁半のルールを聞かされている時のことだった。
「……はぁ?」
弾かれるようにして厚い胸に預けていた身体を起こして振り返ると、ガンダルヴァは飄々としてデリカシーのない質問の答えを待っていた。
「生娘か?」
恥ずかしげもなく、彼はまた言った。涼し気な目元がこんなにも憎たらしいと思ったことはない。猛烈に恥ずかしくなって唇を引き結んだ。顔がカッと熱くなって、ガンダルヴァの目を見られなくなって俯くと、腹にガンダルヴァの手が回って抱き寄せられた。
「その反応は生娘ってこったな。ならお前さんはツイてる。俺は処女の守護神だぜ」
「なにそれ」
「得意なのは演奏と博打だけじゃねえってことだよ」
顔を正面に戻して、伸ばした両足の横に転がった二つの賽子を睨む。上を向いた目は三と五だから、これは丁だ。
「俺が護ってやるよ。契約しよう」
「それってあたしが……その……しょ、処女じゃなかったら契約しないってことだよね?」
「……そうかもな」
一拍置いて、無機な声で深い意味を含んだような返答があった。相変わらず声音から感情が読み取れない男だ。彼は。
「処女じゃなくなったら護ってくれないの?」
ガンダルヴァは鼻息を吐いて、折り曲げていた足を片方伸ばした。腹に回っていた太い腕が蛇のようにずるりと這って、身体が密着した。耳元に嘴が寄る。
「そうなるくらいなら、俺が奪ってやる」
甘く、不穏な囁きはねっとりと身体に絡みついた。また顔が熱くなる。なにも言えずに身体を強張らせていると、愉快そうな小さな笑い声が耳元で弾んだ。
「冗談だ。お前さんが好きな相手と情を交わすなら構わねえよ。悪かったな、からかいすぎた。単純にアンタが気に入っただけだ」
ガンダルヴァが動いて、微かに生じた風が芳香を運んだ。彼から放たれる馥郁とした魅惑的な香りは、胸の奥で芽生えて、育たないように抑えていた情熱的で甘美な感情を暴き、心を搔き乱した。
「お前さんがいると俺は負け知らずでね。お前さんは俺にとっての勝利の女神様ってわけだ。ほら、続きといこうや」
咄嗟に手を伸ばし、転がった賽子を取ろうとしたガンダルヴァの手首を握った。
「どうした、嬢ちゃん」
彼は徐に掌を上に向けて滑らせると、優しく手を包み込んでくれた。直に伝わる体温は心地良くて、熱くて、火傷してしまいそうだった。
「は、初めてが、ガンダルヴァなら……いいな」
大きな手を握り返して、ガンダルヴァの胸に寄り掛かって恐る恐る彼を見上げると、一瞬驚いたように瞠った目には、自分が映っていた。
「そうかい、俺はツイてるな」彼は賭事に勝利した時と同じ恍惚の表情を浮かべて語を継いだ。「その時は優しくするぜ、女神様」
それからガンダルヴァは、握った手を手繰り寄せて、左手の甲の刻印に嘴を押し付けた。
「これはキス?」
「ああ。なんならもっといいことしてやろうか?」
腹にあった手が少しせりあがって胸の下で止まった。なにも言わずに身体の力を抜いてガンダルヴァに身を任せた。
高鳴る鼓動を彼に気付かれないように祈って。