クリスマスパーティーの後片付けをして立香が部屋に戻ると、壁掛け時計の針はあと一時間ほどで日付を跨ぐところだった。
クリスマスの終わりも近い。ネモからのプレゼントは本当に嬉しかった。みんなでわいわいやりながら聖夜を祝うパーティも楽しかった。今年もいいクリスマスだった……
立香はふーっと息を吐いてベッドに座る。シャワーを浴びてパジャマに着替えなければいけないが、みんなが「似合っている」と言ってくれた特別な[[rb:魔術礼装 > サンタふく]]を脱いだら、煌びやかな魔法が解けてしまうような気がした。もう少しだけサンタクロースでいたい。それに、せっかくのクリスマスなのに、恋人と甘い夜を過ごせていない。
ふと、クローゼットの抽斗にしまったままの「アレ」の存在を思い出した。
小さなノック音が部屋に響いた。
ドアを開けると、サンタクロースの格好をした立香が立っていた。
「よう、サンタクロース」
「入ってもいいですか?」
小さな問い掛けに、テスカトリポカは答える代わりに顎で室内を差した。
ドアを閉めて、テスカトリポカは鷹揚とソファに腰掛けて、部屋の真ん中で立ち止まって物言いたげにしている立香を見た。
「サンタクロースってのは、いい子のところにしか来ないと聞いたんだがね」背凭れに片腕を載せる。サンタクロースからのプレゼントは望んでいなかった。「靴下も用意していない」
「そのサンタクロースが悪い子だったら、どうします?」
胸のリボンに拳を埋めて立香は言った。サンタクロースのブーツの踵が床を打つ。規則的な音はテスカトリポカの前で止まった。
「悪い子、なのか?」
立香を見上げて、テスカトリポカは喉の奥で低く笑った。立香は答えない。頬だけがほんのりと赤くなっている。
「悪い子、かもしれない」
ショートパンツからすらりと伸びた華奢な足がテスカトリポカの太腿を挟み込んだ。ソファのシートが深く沈み、目線がほとんど同じ高さになった。
テスカトリポカは背凭れに置いていた手で立香の括れた腰を支えた。彼女は先程食堂で行われたパーティでは見せなかった顔をしていた。テスカトリポカとふたりきりの時に見せる、夜の顔。色を知った女の顔だ。
腰に回した手を、もこもことしたサンタクロースの服の下へ差し込む。中は体温がこもっていた。手を上に向けて這わせていく。胸元に触れた時「少し前にあなたがくれた下着を着てきたの」立香は俯いて、消え入りそうな声で言った。
「それを着て、夜這いに来たってワケ。そりゃたしかに悪い子だが」テスカトリポカは目を細めた。「刺激的でいい。嫌いじゃない」
立香は夜這いであることを否定せず「どうして、わたしに下着を贈ったんですか」首を傾げた。
「男が女に下着を贈る理由? 決まっているだろう」
テスカトリポカはサンタクロースの衣装を脱がせながら微苦笑する。
「脱がせるためだ」
胸元を覆うのは、黒いレース状のブラジャーだ。乳房を覆ってはいるがほとんど透けている。フロントからカップの部分に掛けて金色の線がいくつも走っていて、蝶の翅の模様のように見えるし、心臓に張り巡る血管のようにも見える。特注で作らせたランジェリーだが、まさか立香が本当に着るとは思わなかった。
「まあ、これは脱がせなくてもよさそうだな」
立香は顔を真っ赤にさせて、「パンツは自分で脱ぎますっ」と弾かれたようにテスカトリポカの膝から降りて、ショートパンツを脱いだ。布面積が少なすぎる、ショーツと呼ぶには心もとない下着が現れた。こちらもほとんどがレース生地で、股座を覆うのは僅かな布だけで、尻に至っては剥き出しだ。隠すべきところがほぼ隠れていない。
「夜這いに来たサンタクロースをもてなしてやろう」
テスカトリポカは口端を持ち上げ、ソファの端で縮こまっている立香に迫った。ふわふわのサンタ帽、透けたセクシーランジェリー、もこもこのブーツ……活発なサンタクロースと匂い立つ官能というのは、アンバランスだ。
「恥ずかしい」
「そのつもりできたんだろう?」
「そうだけど、こんな下着、着たことないし……」
立香がソファの肘掛けに頭を載せる。サンタ帽が床に落ちたが構わなかった。テスカトリポカは彼女の足の間に身体を割り込ませて距離を詰めた。鼻先に吐息が掛かる距離で見詰め合い、垂れ下がった金色の幕の内側で、緊張で引き結ばれた薄腿色の唇を塞いだ。角度を変えて啄み合ううちに、情欲もソファに腰掛けた。
テスカトリポカは無防備な細い喉に尖らせた唇を押し付け、鬱血の痕を残していく。柔肌は心地いい熱を帯びていた。時々肩口や鎖骨に軽く歯を立てて、頭を胸元に向けて下げていった。レース生地の上から指先で円を描くようにして膨らみの頂を刺激してやると、立香は食い縛った歯の隙間から息を漏らした。
指先を生地の縁に引っ掛けて引っ張ると、ぷるんと乳房が揺れて、勃起した乳首が露出した。つんと尖って主張している軸に舌先を絡めてねぶってやる。テスカトリポカは、男を知らない無垢なこの身体に快楽を教え込んできた。自分でもろくすっぽ自慰をしたことがなかった少女は、今ではこうして乳首を愛撫しただけで――「あ、あぁ、んっ……!」甘イキする。
「おっぱい弄られるの、好き」
立香の琥珀色の眸は、甘美な情欲の火にあてられてとろけていた。
もう片方の生地もずらした。乳首を指先で転がし、爪先で弾き、舌で掻いてやる。甘ったるい声を上げて立香は善がり、テスカトリポカの背中にしがみついた。
「ねえ、ベッドでしたい」
「そうだな。ここじゃあ狭い」
身体を起こして立ち上がり、テスカトリポカは立香を横抱きにしてベッドに向かった。抱き上げられるとは思っていなかったらしい彼女は、テスカトリポカを見上げて目を丸くさせていた。
ベッドの横に、ふたり分のブーツが並んだ。
テスカトリポカは、枕に頭を載せた立香をまじまじと眺める。黒いランジェリーは白い肌に映えていて、よく似合っていた。
「そんなに見ないで、えっち」
立香は胸の前で腕をクロスさせ、膝も寄せて身体を隠そうとしたが、今度は生地に覆われていない尻が丸見えになった。もちろん、本人は気付いていない。
「素っ裸を晒しているのに、今さら恥じらうことか?」
立香はしかめっ面で黙り込んだが、観念したのか、足を開いた。
股座に指先で触れると、そこは潤んでいた。生地の上から指で捏ねるように撫でてやる。ぐち、ぬち、と湿った音がした。ぬめる割れ目の間を縦になぞり、硬くなったクリトリスを指の腹で潰すと、立香は戦慄くように身体を震わせた。
「テスッ……ん、指、挿れて、ください……」
吐息混じりのおねだりに、テスカトリポカはほくそ笑む。立香にキスをしながら、唯一透けていないクロッチ部分をずらして、濡れた秘裂へ指を挿入する。テスカトリポカだけを受け容れるそこは、彼の中指と環指を根元まで迎え入れた。差し出された舌を吸っている間も、胎内は指の動きを貪欲に追う。
「あ♡ んっ♡」
手を前後させると、粘膜を搔き乱す水音がふたりの間で弾けた。浅い部分で手を止めて腹側を押し上げるように指を軽く曲げると、立香は一際大きな嬌声を漏らした。テスカトリポカは長い指を鉤型に曲げたまま、肉壁を擦り上げるようにして奥を割っていく。
「奥ごりごりされるのきもひぃ……らめっ、もう我慢できないよぉ……♡」
まるで言葉を覚えたての子供のように、呂律の回らない舌で立香は言った。
「せっかく夜這いに来たんだ。好きなだけオレのナニをしゃぶって、腰を振ってみろよ、サンタさん」
「はい……♡」
立香はゆっくりと起き上がった。テスカトリポカはのろのろと身体を横たえ、ジーンズのフロント部分を寛げた。緩く勃起したペニスを前にして、下着だけを身に着けた立香は喉を鳴らした。そして身体を低くさせ、髪を耳に掛け、むしゃぶりついた。寄せられた柔らかい乳房が押し潰されているのを見据え、テスカトリポカは拙くもいじらしいフェラチオを堪能した。
やがて、男の本能は何本もの太い血管を浮かせて屹立した。立香は濡れた唇を舌先で拭うと、テスカトリポカの身体に乗り上げ、両膝を立てた。
「おっきい♡」
肺腑から体温を吐き出して、立香は自分の臍の辺りまで高々とそそり勃ったそれを受け容れようとクロッチ部分をずらし、慎重に腰を落としていった。
「あ、あああ♡ んっ……♡」
肉の詰まった膣内はうねり、攣縮し、テスカトリポカを最奥まで受け容れる。行き止まりは子宮口だ。狭まったそこは、先端に吸い付いて離そうとしない。
「……はっ、吸い付いてきやがる」
テスカトリポカは微かに息を漏らした。
とうとう立香の尻がテスカトリポカの腹に密着した。
「あっ♡ 奥、当たってる♡」立香は胎の隙間を埋める質量に恍惚の表情を浮かべ、腰を前後させた。「きもちぃ♡」
割れた腹に手を置いて、立香は腰を上げ、ピストンを重ねた。腰を上げれば肉襞を逆撫でされ、腰を落とせば子宮口を突かれる。たまらなかった。
差し出されたテスカトリポカの手を取り、互い違いに指を交えて強く握り、立香は髪を振り乱して無我夢中で腰を叩き付けた。下着のクロッチ部分はもう愛液でぐちょぐちょだった。ベッドが揺れ、喉からは嬌声が絶え間なく出た。立香自身騎乗位はそんなにしたことはなかったが、正常位や後背位とは違った重たい響きが胎の奥に広がって気持ちよく、好きだった。
「ん♡ んんっ♡ あっ、うう……♡」
腰を落とし、降りてきた子宮口を押し上げるように動いたが、イきそうになると動きがおろそかになって、いいところで止めてしまう。もどかしい。
「サンタクロースのくせに、騎乗が下手とは笑えるな」
テスカトリポカは小さく笑って下から突き上げてきた。深いところを抉るように突かれ、頭の中が真っ白になって、立香は声も出せないまま絶頂した。
テスカトリポカの追撃は容赦なく続いた。乳房がたわみ、ブラジャーから飛び出した乳首が動きに合わせて弾む。
「どうした、まさか、もうおわりじゃないよな?」
「っ、あ」
立香は大きな手に腰を掴まれ、組み敷かれてしまった。形勢はあっさり逆転した。テスカトリポカは極致感の余韻で痺れている身体にのしかかり、深々と肉杭を胎に食い込ませた。上から押し潰す勢いで腰を沈め、睾丸が濡れた尻たぶの間で潰れるのにも構わずぐりぐりと押し付けた。
「おっ……♡ ぐぅう……♡ それ、や、あぁ……♡ んっ♡ ひぅっ、押し込んじゃだめ♡ そこっ、しきゅっ……♡」
立香は息も絶え絶えだった。四方から肉壁にキツく締め上げられながら、テスカトリポカは眉を寄せた。シーツに手を突いて熱のこもった息を吐き、腰回りを重たくさせる射精感のままに抜き差しをはじめた。肉がぶつかる度に、ばちゅばちゅと生々しい営みの音が立香の余裕のない声に被さる。
「イく♡ イっちゃう♡ ああ♡ ~~~~~っ♡」
テスカトリポカの身体の横から突き出していた足が伸び、爪先が張って、力なくシーツに落ちた。胎内が波打つ。
「ぐ、射精るっ……」
痙攣する胎内に搾り取られるようにして締め上げられ、テスカトリポカは歯を食い縛った。腰の動きを少しずつ緩め、隙間なく密着して、子種を欲する最奥に向けて熱を放った。
「……いっぱい出てる……♡」
「……まだ射精るっ」
精液は鼓動に合わせて間歇的に噴き出て、立香の胎を満たしていった。射精を終え、テスカトリポカは腰を引いた。肉の栓が抜けて、逆流してきた白濁がクロッチに沁みていく。
立香の胸元は上気していた。セックスの時、体温が上がるとほんのりと肌に赤みが差すことを知っているのは、テスカトリポカだけだろう。
「さて」テスカトリポカは乱れた髪を掻き上げ、快楽に屈服した立香を見下ろす。「今夜は帰れると思わないでくれよ、マスター」
時計を見るまでもなかった。クリスマスはとっくに終わっている。サンタクロースを待つトナカイはいない。聖なる夜に鳴る鐘もない。
枕元の黒いレースに包まれた極上のプレゼントは、女の顔をして、テスカトリポカに向けて微笑んだ。