立香の部屋を訪れると、室内は静まり返っていたが、プトレマイオスは構わずベッドに腰掛けて彼女を待つことにした。
食堂で夕食を摂った際に、読書会の約束をしたのだ。
――このあと管制室に行かないといけないから、もしかしたらちょっと遅れるかもしれないです。その時は少しの間待っていてください。
食堂を出る時の立香の言葉を思い出しながら、プトレマイオスは顎髭を撫でた。夜は長い。彼女との読書会のためならば、いくらでも待つつもりだ。
ふと視軸を枕元へやると、一緒に読んでいる読みかけの本の隣に、昨日はなかった置物が置いてあった。
気になって手に取った。プトレマイオスの掌に収まるサイズの置物には、台座が付いていて、上には透明な丸い球体が取り付けられていた。
球体の中には、赤と緑の縞模様のマフラーを巻いたサンタ帽を被った小さなテディベアが、積み重なった色とりどりのプレゼントボックスを背にして座っている。
球体の内側は無色の液体に満たされているらしく、傾けてみると、敷き詰められている大量の真っ白な粒と銀色の紙片がゆっくりと傾いた方向に散らばり、重力に従ってはらはらと底に向けて落ちていった。まるでしんしんと降り積もる粉雪のようだ。
「ああ、スノードームか」
プトレマイオスはぽつりと呟いて、球体を下に向け、再び上に向けた。はじめて見たそれは子供の玩具に過ぎないだろうが、ひとつとして同じ動きはなく、見ていて飽きない……
じっと見ていると、部屋のドアが開いた。
プトレマイオスはスノードームからドアへ意識を移した。そこには部屋の主人が立っていた。
「ごめんなさい、待たせちゃった」
「いいや、吾もちょうど来たところだ」
たっぶりとした赤毛を揺らし、立香はベッドに歩み寄り、プトレマイオスの隣に腰を下ろした。
「これは、昨日はなかったな」
「あ、スノードーム? 今日出したんです。もうすぐクリスマスでしょう? この時期になると見たくなるんです」
髪を片耳に掛けると、立香はスノードームを覗き込んだ。プトレマイオスの手の中では、まだ雪が舞っている。
「クリスマスか。今年は吾も楽しませてもらおう」
「今年はあなたと一緒にお祝いできるのがすごく嬉しいです」
立香はプトレマイオスを見上げて柔らかく微笑んだ。頬がほんのり紅潮している。
プトレマイオスは髭の下で口の端を緩めた。そして、立香の頭を優しく撫でて、抱き寄せて、艶やかな髪に口付けを落とした。
彼の手の中では、小さな銀世界が広がっていた。