銃声は五回したが、十数メートル先の丸太に五つ並んだ空き缶の的は、右から二番目のものしか吹き飛ばなかった。
耳を塞いでいた両手を離し、テスカトリポカと的を交互に見る。
テスカトリポカは無言で銃を下ろすと、不機嫌そうに舌打ちした。
「当たらねえ」
彼の眉間には厳しくシワができていた。
「銃って、難しいんですね」
「おまえは銃を撃ったことはないのか?」
「ないです」
「なら撃ってみろ。いざという時に役に立つだろうからな」
「使う機会なんてないですよ」
慌てて首を振る。動きに会わせて髪が揺れた。
「いいから、こい」
テスカトリポカに促されて、渋々彼のそばへ寄ると、銃を差し出された。
「安全装置は外してある」
躊躇しつつ受け取ると、改造銃はずっしりと重かった。
慎重にグリップを握り、昔夢中になって観ていた海外の犯罪ドラマで、FBI捜査官が銃を構えていた姿を思い出しながら、片手で台尻を支える。
時々こうしてシミュレーターを使ってテスカトリポカの気紛れな射撃訓練に付き合う——大体一回で終わる。わたしは空き缶を並べたり、回収したりするだけだ——が、まさか、自分が撃つ日がくるなんて。
「しっかり握ったら、構えてみろ」
「はい」
言われた通りに銃口を的に向けてみる。テスカトリポカが音もなくうしろに立った。腹の横から伸びてきた彼の手が台尻を支えるわたしの手に添えられる。彼の手は、少しだけ冷たい。
「銃を撃った時、最初に感じるのはなんだと思う?」
「……反動?」
「違う、当たったという手応えだ」
当たればですよね、という言葉を飲み込んで黙った。
「引金を引いてみろ」
歯を食い縛り、照準を真ん中の缶に定めて、頭の中で三つ数えて——撃った。銃声が轟き、肩に衝撃が走る。
弾は——当たらなかった。
「やっぱり、反動ですよ」
ぽつりと呟くと、テスカトリポカは背後で楽しそうに声を上げて笑った。
足元に落ちた薬莢が、ころころと転がる。弾はきっと、明日に飛んでいったに違いない。